第741回 2007年ツール・ド・フランス(3) ファビアン・カンチェラーラがロンドンの王者に

■ロンドンを制したスイス人のスプリンター

 ロンドンからスタートする2007年のツール・ド・フランス、7月29日の最終日まで2日の休息日を挟んで21日(20のステージに加え、プロローグ1日)の熱戦が英国、ベルギー、フランスの地で繰り広げられる。
 まずロンドンでの初日はプロローグである。このプロローグはタイムトライアルで、単独走行してそのスピードを競うものである。コースはトラファルガー広場を出発、ビッグベン、ウェストミンスター寺院の前を通り、バッキンガム宮殿前を通過し、ハイドパークの緑の中を走り抜け、ゴールは再びザ・マルに戻ってくる。全長わずか7.9キロメートルではあるが、ロンドンの目抜き通りと観光地を周回するとあって、100万人以上の観客が集まった。実はこのロンドンでプロローグが行われた7月7日は2年前にテロが起こった日である。テロに打ち勝とうと言うロンドン市民の思いがこの大観衆につながっているのであろう。
 この100万大観衆の前で優勝を飾ったのはスイスのファビアン・カンチェラーラである。カンチェラーラはタイムトライアルのスペシャリストであり、昨年の世界選手権でも優勝している。多くの有力選手ですら9分台前半をマークするのが精一杯と言う中で、唯一8分台をマーク、8分50秒と言う驚異的なタイムで優勝したのである。
 そしてカンチェラーラは7月10日の第3ステージでも優勝する。ワレジェムとコンピエーニュを結ぶ第3ステージは今年のコースで最長となる236.5キロメートルの長丁場である。最後の500メートルでカンチェラーラは他の選手を抜き去り、ステージ優勝を遂げた。カンチェラーラはこれらの貯金を生かして第6ステージまで総合首位をキープしたのである。

■第5ステージで転倒した優勝候補アレクサンドル・ヴィノクロフ

 さて、本連載の第739回で紹介した優勝候補筆頭のアレクサンドル・ヴィノクロフであるが、なかなか調子の波に乗ることができない。7月12日に行われたシャブリとオータンを結ぶ第5ステージの終盤で転倒してしまう。両膝から出血する負傷により、1分20秒ロスしてしまう。最初の休息日を迎える段階の第8ステージ終了時でのヴィノクロフの順位は22位、首位との差は5分14秒である。

■山岳王ミカエル・ラスムッセン、総合首位に

 最初の休息日の7月16日は山岳コースでティーニュに登りつめた翌日に与えられる。この第8ステージはボールナンカラティーニュに向かうコースであるが、この山岳コースを制覇したのはデンマークのミカエル・ラスムッセン、山岳賞ということで白地に赤の水玉模様のマイヨー・ブラン・ポア・ルージュを獲得するとともに、総合でも首位に立ち、黄色いマイヨー・ジョーヌが与えられたのである。山岳コースには絶対的な自信を持つラスムッセンは2005年、2006年と山岳賞を獲得しており、3年連続の山岳王である。
 序盤戦を終えて評価が高いのがドイツのアンドレアス・クローデンである。総合順位は12位であるが、昨年総合3位という実績、そして今季からヴィノクロフと同じアスタナに移籍し、マイヨー・ジョーヌを狙っている。また、プロローグでカンチェラーラに次ぐ2位であったことからも、スプリンターとしての能力は高い。そして何よりも同じチームには優勝候補のヴィノクロフがいる。したがって、クローデンの株が急上昇と言うわけである。

■フランス人として22年ぶりの優勝を狙うクリストフ・モロー

 そして忘れてはならないのが地元フランスのクリストフ・モローである。今年36歳となるベテラン選手であるが、長年ツール・ド・フランスにおいてフランス人選手の中で良い成績を収めてきた。昨年は同じフランス勢のシリーユ・デッセルに次ぐ8位でフランス人の中で2番目の成績であった。今年はツール・ド・フランスを控えてオーリャックで行われたフランス選手権で初優勝を飾っている。第8ステージを終えた段階の順位は7位、首位とは3分6秒差である。もしもモローが優勝すれば、フランス人選手の優勝は1985年のベルナール・イノー以来22年ぶりとなる。その久々の優勝をフランス国民は期待しているのである。(続く)

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