第1314回 3回目の決勝進出(4) 防戦一方のウェールズ戦、ノートライで勝利

 3月11日に起こった東北地方太平洋沖地震で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、救援活動、復旧活動に従事されている皆様に敬意を表し、東北地方だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■第1回大会以来24年ぶりの準決勝となるウェールズ

 今回で7回目を迎えるラグビーワールドカップ、フランスもウェールズもともに7回目の出場であるが、準決勝進出はフランスが6回目であるのに対し、ウェールズは2回目でしかない。1991年の第2回大会の準々決勝で敗れた以外は必ずベスト4以上と言うフランスに対し、ウェールズが準決勝に進出したのは今をさかのぼること24年前、すなわち第1回大会が最初で最後である。日本のファンの皆様にとって、ウェールズは初めてナショナルチームとして国立競技場で試合をしたチームとして記憶に残っているであろう。それまでは有力大学チームだけが使用することができた国立競技場の歴史を変えたチームである。
 そのウェールズの1970年代の栄光の火がかすかに残っていた1987年の大会こそ準決勝に進出したが、1991年大会、1995年大会と予選プールで姿を消し、地区予選から本大会にたどり着くという苦難の道を歩んだこともある。

■若いFW、23歳の主将、フランス組のハーフ団、ベテランのトライゲッター

 そのウェールズは若返りを図るとともに、小柄な選手も起用し、低いタックルと早い展開で準決勝に進出してきた。FWの8人のうち、両プロップが30で、それ以外は20代である。特に右フランカーのサム・ウォーバートンは弱冠23歳にして主将を務め、ウェールズラグビー100年の歴史の中で最年少の主将である。
 ハーフ団はいずれもフランスのクラブに所属しており、スクラムハーフのマイク・フィリップスはバイヨンヌ、スタンドオフのジェームズ・フックはペルピニャンにそれぞれ所属している。
 そしてバックス陣で注目はウイングのシェーン・ウィリアムズであり、身長170センチでありながら、トライを量産し、これまで代表84試合で56トライ、実に1試合当たり0.67本のトライを決めている。若手中心のウェールズの中では最年長の34歳、初キャップは2000年2月3日であり、10年以上前に代表入りした選手はすでに準決勝に進出したチームの中ではウィリアムズだけである。

■イングランド戦と同じ布陣で戦うフランス

 一方のフランス、イングランド戦と先発メンバーは変わらず、第1列はジャン・バプティスト・プー、ウィリアム・セルバ、ニコラ・マス、第2列のロックはリオネル・ナレとパスカル・パペ、第3列はフランカーが主将のティエリー・デュソトワールとジュリアン・ボネール、ナンバー8がイマノル・アリノルドキ、ハーフ団はスクラムハーフがディミトリ・ヤシビリ、スタンドオフがモルガン・パラ、センターはマキシム・メルモスとオーレリアン・ルージェリ、ウイングはアレクシス・パリソンとバンサン・クレルク、フルバックはマキシム・メダールである。FWは主将のデュソトワール以外は全員が30代と言うベテランぞろいの布陣である。

■1人少ないウェールズがフランスを圧倒、堅守と好キックのフランスが辛勝

 試合は、勢いに乗る赤い悪魔ウェールズの一方的な展開になった。ボール支配率、陣地支配率ともにウェールズが優位。8分にはフランスがたまらずオフサイドの反則、ペルピニャンのスーパーブーツ、フックがペナルティゴールを決め、ウェールズが先制。その後もウェールズペースであったが、18分に思いもかけぬことが起こる。フランスのトライ王クレルクをウェールズの主将のウォーバートンが強烈なタックル、クレルクを地面にたたき落とすような形になり、危険なタックルにより退場処分となる。主将の退場で流れが変わるかと思われたが、試合は相変わらずウェールズペースのまま。流れを変えたのは両チームのキッカーであった。フランスは22分にパラが同点、34分に逆転のペナルティゴールを決める。一方のウェールズは11分、30分とペナルティゴールを失敗、39分にもドロップゴールが届かない。
 運動量の落ちないウェールズに対しわずか3点リードのフランス、キックとともにフランスを救ったのがタックルであった。今大会のフランスは相手に試合を支配される時間帯が多い。開幕戦の日本戦も同様である。しかし、精度の高いタックルで、相手の前進を阻む。この日もタックル成功率は94%と驚異的な数値である。そして51分にはパラが3本目のペナルティゴールを決めて6点差とする。なおも攻撃を続けるウェールズ、59分にはフィリップスがこの試合唯一のトライを決めるが、代わったキッカーのステファン・ジョーンズも外してしまう。この後もウェールズはキックが入らず、フランスが9-8と逃げ切り、3回目の決勝進出を決めたのである。(この項、終わり)

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