第70回 連覇を目指す23人(6) 韓国企業の支援を受けるフランス代表

■試合の翌日にクラブチームと試合

 勝利はおさめたものの、守備陣の乱れ、ジネディーヌ・ジダンの負傷と不安材料が現れた5月27日の韓国戦。試合の翌日は休養あるいは軽い練習が通常のパターンであるが、フランス代表は韓国戦の翌日にクラブチームと試合を組んでいた。
 この練習試合は韓国との親善試合に出場しなかった選手を中心としたメンバーで行うものであり、試合勘の維持が目的であるが、ジネディーヌ・ジダンの負傷により攻撃陣の修正も勘案しなくてはならず、新たな意味付けも加わった試合となった。今までの遠征では試合の翌日には控え組を2つに分けるミニゲームなどを行っていたが、11人で練習試合を行う方が望ましいことは明白である。この練習試合が可能となったことはサッカーの世界におけるフランスと韓国との関係が大きく影響している。

■フランス代表のスポンサーのLGが所有する安養LGチーターズ

 フランス代表の練習試合の相手は安養LGチーターズ。1998年には韓国のFAカップを制し、2000年2月から3月にかけてアジアカップウィナーズカップの3回戦でこの大会の覇者となった清水エスパルスと対戦している。そして2000年には韓国リーグの覇者となり、2001年2月に韓国の西帰浦で行われたアジアクラブ選手権の準々決勝リーグで鹿島アントラーズと対戦し、準優勝に輝いている。韓国の強豪として日本の皆さんにもおなじみのチームであるが、その名からわかるとおり韓国有数の大企業であるLGが所有しているクラブでもある。
 実はこのLGはフランス代表チームの有力なスポンサーであり、指宿での合宿時にもトレーニングウェアにLGのロゴを着用していたのを覚えていらっしゃる方も少なくないであろう。このフランス代表のスポンサーであるLGは昨年のコンフェデレーションズカップ時にも選手に自社の携帯電話を貸与するなどの支援を行ってきたが、今回の本大会では自社のクラブチームをフランス代表のスパーリングパートナーとして協力することになった。また安養市は京城からわずか30キロしか離れておらず、フランス代表の宿泊しているホテルからバスでわずかの距離のところにあるクラブのグラウンドを提供しており、このグラウンドで試合を行うことになった。

■開幕戦翌日にも練習試合を予定

 23人のうち5月27日の韓国戦でフル出場した選手は4人、途中出場あるいは途中退場した選手が14人、試合に出場しなかった選手が5人と言う内訳になる。韓国戦の翌日である5月28日は午前中に練習を計画していたが、これを中止し、夕方から安養LGチーターズと練習試合を行い、試合に出場しない選手はジョギングやマッサージなどで調整をした。練習試合のメンバーはGKウルリッヒ・ラメ、DFは左にバンサン・カンデラ、センターの2人はフィリップ・クリスタンバルとミカエル・シルベストル、右サイドには安養LGチーターズの選手が入る。MFはビリー・サニョル、アラン・ボゴシアン、クロード・マケレレ、ジョアン・ミクーが入りFWはティエリー・アンリとジブリル・シセである。60分間の試合を行い、試合開始30秒後にアンリが先制点、3分にクリスタンバルがオウンゴールを許し、試合終了間際にシセが勝ち越し点を奪った。勝敗よりも選手の調整、そしてジダンの欠場を補うメンバー選考が主眼であるが、注目すべきは開幕戦の翌日の6月1日にも同様に安養LGチーターズと練習試合が予定されていることであり、スポンサー企業には感謝しなくてはならない。

■韓日の企業のサッカーに対する考え方の違い

 以前はフランス代表やフランスのクラブチームのスポンサーに日本企業も名を連ねていたが、現在はフランスでユニフォームに日本企業のロゴを見つけることは難しい。経済面ではJリーグが誕生以降、日本企業が国内の代表チームやクラブチームを広告媒体として使うようになったこと、日本経済の低迷に伴う海外ビジネスからの撤退が日本企業の海外におけるスポンサーからの撤退につながっているのであろう。また政治的にはサンフランシスコ講話条約締結50年、沖縄復帰30年と言う時代の流れも日本におけるナショナリズムの高揚をもたらし、日本企業は日本の代表チームやクラブチームを支援するようになってきたのであろう。
 一方の韓国企業は、フランス代表だけではなく本連載の第15回でも紹介したとおり豪州代表チームを支援している。また数多くのフランスのクラブチームを財政支援しており、韓国企業の支援のおかげで破綻寸前のクラブが存続できたような事例もある。
 欧州のサッカー界において韓国企業のプレゼンスは日本企業の比ではない。韓国企業はサッカーを純粋なスポーツであるととらえ支援しているが、日本企業はビジネスやナショナリズムのツールとして支援している。その韓国のサッカーに対する思いとフランス代表の支援に対する感謝を胸にフランス代表はいよいよ5月31日にキックオフを迎えるのである。(この項、終わり)

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