第79回 デンマークに惨敗、悪夢再び(2) ロジェ・ルメール監督の保守性に限界

■「グループリーグで惨敗した理由」にはならないジネディーヌ・ジダンの負傷

 「ジネディーヌ・ジダンが負傷」が今回の惨敗の理由だとよく言われる。デンマーク戦では0-2と敗れながらも、負傷をおして出場したジダンは「マン・オブ・ザ・マッチ」に選出され、その存在感を示した。最近のフランス代表の試合ではジダンが出場した試合はほぼ7割の確率で勝利をあげているが、ジダンが出場しなかった試合では5割程度しか勝利できない、という統計もある。ジネディーヌ・ジダンが万全の体調で初戦から出場していれば、おそらく違った結果になっていたかもしれない。
 しかし「ジダンの負傷」は「優勝を逃した理由」にはなるかもしれないが「グループリーグで惨敗した理由」にはならないだろう。ジダンが出場しなかった試合でもフランス代表はそれなりの成績を残している。また、ワールドカップ本大会は通常の試合とは異なり、23人の登録メンバー全員に出場の機会がある。ジダンが試合開始直後に何らかの理由でピッチを去り、代役の暫定ゲームメーカーが攻撃の組み立てに苦労する、という状況は想定する必要はない。ジダンが不在の場合も想定してメンバー登録をしているはずである。この「ジダンの代役」として第1戦のユーリ・ジョルカエフ、第2戦のジョアン・ミクーが十分な働きができなかったことは本連載でもその都度述べているので今回はあえてコメントしない。

■固定化してしまった攻撃のシステム

 それでは一体何がこの惨敗につながっているのであろうか。まずはジダン不在と重なるが、メンバーだけではなくシステムも固定しており、他のシステムを試行しなかったことがあげられる。攻撃面では2000年の欧州選手権以降フランスは常に横綱相撲で4-2-3-1のシステムを貫いてきた。ゲームメーカーの前方と左右に豪華なメンバーを揃え、攻撃力を誇った。第1戦でジダンの代役のジョルカエフが十分な働きができなかった際に、単純にゲームメーカーを代えるだけではなく、システムそのものを変更したらどうか、というアイデアも出された。例えば、守備的MFを3人にし、2人の攻撃的MFが共同でゲームメークをする4-3-2-1システムや、中央にゲームメーカーを配置しない4-4-2システムなどの案が出された。
 しかし、フランス代表が4-2-3-1システム以外のシステムで戦ったのは2000年欧州選手権の準決勝で爆発的な攻撃力を誇るポルトガルに対して守備的MFの数を増やした時が最後であり、この2年間、常にシステムを堅持してきた。ジダンの代役としてジョルカエフ、ミクー、そしてメンバーから外れてしまったエリック・カリエールの力が納得のいくものでなければ、他のシステムも試行する必要があったが、それを怠っていた。

■守備陣の高齢化に対する準備不足

 また、特に第1戦で指摘された課題として高年齢化によるDF陣のスピード不足も指摘された。これについてもストッパーはマルセル・デサイーとフランク・ルブッフがレギュラーでその控えとして若手のフィリップ・クリスタンバルとミカエル・シルベストルがいた。しかし、第2戦でルブッフが負傷退場した際、代わりにこのポジションに入ってきたのはベンチにいる若手のストッパーではなく、それまで右サイドを守っていたリリアン・テュラムだった。結局、第3戦もテュラムとデサイーがストッパーを務めたわけであったが、最多の2失点を喫したものの、この2人のストッパー起用は正解であった。選手が負傷退場した際にFWの選手が負傷した場合は選手とともにシステムを変えることもできるが、DFの場合はそうもいかない。したがってDFの選手の方が複数のポジションをこなすことを常日頃から徹底させられている。フランスのDFの中で複数のポジションをこなす能力に一番秀でているのがテュラムであろう。なぜ準備段階でDFの中心にテュラムとデサイーを据え、右サイドに両サイドで守備のできるバンサン・カンデラやビリー・サニョルなどを起用することを考えなかったのであろうか。

■ジャイアントキリングの対象となったルメール監督の保守性

 ロジェ・ルメール監督は保守的な人物である。そのシステムを継続することにより就任以来成果を残してきた。しかし、その固定化したシステムも永遠のものではない。システムや戦術が固定化しているチームは研究しやすく、強豪国に一泡ふかそうとしているチームにとっては格好のジャイアントキリングの対象である。もちろん研究しされてもここまで優位性を保ってきたルメール監督の戦術は評価しなくてはならないが、その限界を見誤ったのであろう。(続く)

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