第436回 スイス、イスラエルと連戦(3) 首位となるも不本意なイスラエル戦

■スイス戦の翌日に選手の入れ替え

 ワールドカップ予選前半戦の最後の試合でスイスと引き分けてしまったフランス代表。後半戦のスタートであるアウエーのイスラエル戦は中3日という日程で行われる。このタイトな試合間隔の中、ドメネク監督はスイス戦の翌日にメンバーの入れ替えを発表する。リオ・アントニオ・マブーダを21歳以下の代表チームに移す。21歳以下のフランス代表も2006年に行われる21歳以下の欧州選手権の予選が行われており、イスラエルとフランスが同勝ち点で首位に立っている。兄貴分のフル代表の試合がある前日の29日にテルアビブでイスラエル-フランス戦が行われ、その中盤の柱としてマブーダをチームに合流させる。
 逆に、新たに招集したのがスティーブ・マルレである。マルレが最後にブルーのユニフォームを着たのは昨年の6月6日のウクライナ戦、すなわちフランス代表が国内で最後に勝利した試合である。また本連載第426回で中田浩二のマルセイユでのデビュー戦を紹介したが、その次のランス戦はマルレの2ゴールで勝利を収めている。マルレは今シーズンのリーグ戦で7得点をあげているが、そのうち5得点が年明け以降のものであり、好調な選手起用は当然である。しかし、マブーダをメンバーから外したことによってMFとして登録されている選手は4人だけになってしまった。

■ファビアン・バルテスの爆弾発言

 そして、この3日間のインターバルの間に起こった事件は選手の入れ替えだけではない。GKのファビアン・バルテスが「イスラエルには治安に問題があるので遠征に参加したくない」、そして「サッカーの世界は腐敗にまみれており、来年には引退したい」と発言し、物議をかもした。引退発言に関してはジャン・フランソワ・ラムール青少年・スポーツ大臣も異例のコメントをするなど、国家を挙げてワールドカップへ行こうという機運は全く見られない。ワールドカップ予選の時期にジャック・シラク大統領が外遊するのも無理はないことであろう。

■キックオフ前に起こった2つの衝撃

 そのようなチーム内外の不協和音の中で、フランスのイレブンは28日にテルアビブ入りする。そしてキックオフ前に彼らに衝撃が走る。まず、火曜日に行われた弟分の21歳以下のイスラエル戦である。21歳以下の欧州選手権の本大会はワールドカップイヤーとオリンピックイヤーに行われる。オリンピックイヤーの行われる本大会はオリンピックへの出場権がかかっていることもあり、注目を集めるが、ワールドカップイヤーの本大会はそれほど注目を集めなかった。しかし、来年の本大会はワールドカップの開催国であるドイツでワールドカップの直前に行われることが決まっており、注目を集めることは必至であり、各国の意気込みも今までとは異なる。フランスが手薄のフル代表のMFからマブーダから外したのも、ワールドカップの前哨戦にかける意気込みの現われである。そして若きイレブンの首位攻防戦、フランスは序盤に先制点を許したものの、あっさりと逆転、しかしその直後に追いつかれる。70分以上タイスコアが続き、このまま引き分けかと思われたが、後半ロスタイムにイスラエルに決勝点を奪われたのである。
 そして2つ目の衝撃はキックオフの直前のことである。イスラエルの治安について爆弾発言したバルテスは4万3000人の観衆からブーイングを受ける。そして国歌ラ・マルセイエーズはそれ以上のブーイングを受けたのである。高級住宅街のルバロワも今後は危険な地域になるであろう。

■天国と地獄を経験したダビッド・トレゼゲ

 ブーイングの中で試合はキックオフ、ティエリー・アンリはベンチ、そして注目のマルレはベンチ入りからも外れるという不可解な選手起用。序盤からフランスが攻め、後半に入り50分にダビッド・トレゼゲがヘディングでゴールを決めるが、55分に自らへのファウルに報復し、一発退場。1人少ないフランスは守勢に回る。83分にイスラエルはついに同点に追いつく。フランスではビルジニーがカールによって落とされたのと並ぶ衝撃が走った。
 結局引き分けとなるが、順位表の上ではフランスが初めて首位に立つ。そして勝ち点1差で追うアイルランドやスイスは消化試合数が1試合少なく、6月の初めにフェロー諸島に遠征する。フランスが首位から陥落するのは時間の問題である。そして、この予選で初めてフランスが失点したという事実は重い。6月には中国遠征が予定され、8月にはアルゼンチンの来征が予定されているが、秋の陣はどのような展開になるのであろうか。(この項、終わり)

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