第484回 ワールドカップ予選フィナーレ(6) 大苦戦の予選突破を振り返る

■欧州で最少勝ち点で予選突破したフランス

 最終戦でキプロスを下し、ダブリンでスイスが引き分けに終わったためにようやく出場権を獲得したフランス代表。ここまでの道のりは険しかった。予選の成績は10試合で5勝5分、勝ち点20、得点14、失点2と言う成績であった。勝ち点18のスイス(得失点差+11)とイスラエル(+5)、勝ち点17のアイルランドを抑えてグループ首位となったフランスであるが、実は欧州のワールドカップ予選の8グループの首位チームの中で勝ち点20というのは一番少ない。グループ4からグループ8までの5グループは6チームからなり、各チーム10試合を行ったが、グループ6、7、8ではこの成績ではプレーオフ出場も不可能である。また、過去の欧州選手権やワールドカップ予選でも6チームで行われた予選で勝ち点20で首位になったケースはない。また欧州だけではなく世界を見渡しても、10試合消化して勝ち点20以下で予選を突破したケースは北中米カリブ海予選3位のコスタリカ(勝ち点16、5勝1分4敗)だけである。それだけ、このグループ4は上位陣の力が拮抗し、勝ち点が1しか加算されない引き分けが続いた結果であろう。

■運命を分けたアイルランド-フランス戦と3人のベテラン復帰

 その混戦の中でフランスが一歩抜け出ることができたのは9月7日のアウエーでのアイルランド戦の勝利によるものである。結局、フランス、スイス、イスラエル、アイルランドという4強の間での対戦は全部で12試合あったが、この12試合のうち実に11試合が引き分けに終わっている。引き分け以外の結果に終わったのはダブリンでのアイルランド-フランス戦だけであり、この試合がグループ4の運命を決めたと言えよう。この試合のヒーローは決勝点を決めたティエリー・アンリとそれを支えたジネディーヌ・ジダンである。この2人はこの試合で負傷し、ジダンは10月初めまで試合に出場できず、アンリはワールドカップ予選が終わってからリーグ戦に復帰すると言う大打撃を受けたが、この2人の負傷と引き換えに得たダブリンでの勝利はなにものにも代えがたいものである。
  また、レイモン・ドメネク監督は8月にジダン、リリアン・テュラム、クロード・マケレレを復帰させたが、この3人はマケレレが最終のキプロス戦を出場停止のため欠場した以外はそれ以降の予選、親善試合を5試合に先発出場している。この5試合の成績は4勝1分、さらに12得点と大幅に得点力をアップした。フェロー諸島戦ではこの予選でその時点で最大となる3-0というスコアで勝利したが、この得点差により、最終戦でスイスに見えざる圧力を与えることができた。ドメネク監督の英断とそれに応えたベテラン3人には敬意を示したい。

■唯一全試合に出場したウィリアム・ギャラス

 終盤にカムバックした3人を賞賛したが、昨年の夏以来続いてきた苦難の予選を戦ってきたメンバーを紹介したい。33人の選手を起用したが、予選10試合全てに出場したのはサイドバックのウィリアム・ギャラス1人である。得点力不足に悩む一方、わずか2失点という堅守は予選突破の原動力となった。続く9試合出場はパトリック・ビエイラ、中盤の底としてチームを支えるとともに、ジダン不在中は主将を務め、チームを牽引した。攻撃陣で最多の出場となったのは8試合出場のシルバン・ビルトール、ジダン不在の際の攻撃の起点となるとともに、ティエリー・アンリ、ダビッド・トレゼゲの2トップを欠くスイス戦ではトップに起用され、後半に本来の攻撃的MFにポジションを替えてからはジブリル・シセのゴールのお膳立てをした。
  総得点は14点と、1試合あたり1.4点と言う低いスコアだったが、フランス代表の得点王は4得点のシセ(6試合出場)である。アンリ(6試合出場)とビルトールが2得点で続き、ジダン、ビカッシュ・ドラッソー、ルドビック・ジュリー、トレゼゲが1得点ずつ、その他にオウンゴールが1点ある。フランスの誇るアンリ-トレゼゲが2人合わせてわずか3得点、本大会では2トップではなく、いずれか1人を1トップとしてその後ろにジダンを配置することになるだろう。

■5秒間だけ出場した30歳の新人フランク・ジュリエッティ

 さてこの予選で珍しい記録が生まれた。本連載第480回で紹介した代表初招集のフランク・ジュリエッティ、スイス戦ではベンチ入りもしなかったが、最終戦のキプロス戦ではベンチ入りし、ロスタイムに入ってシドニー・ゴブーに代わってピッチに入り、30歳で代表デビューを果たす。ところがその5秒後、試合終了の笛が鳴り、わずか5秒間しか出場しなかった。今までにフランス代表として最短出場時間記録は1975年に1試合だけ出場したベルナール・ボワシエの2分間、この記録を更新してしまったジュリエッティだが、今後の代表での活躍を期待したい。(この項、終わり)

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