第499回 ワールドカップ組み合わせ決定(1) 欧州の伝統国を選出した第1シード

■欧州から開催国ドイツ、イングランド、スペイン、イタリア、フランスが第1シード

 日本の皆様もご存知のとおり、12月9日に来年のワールドカップの組み合わせ抽選会が行われた。今回の組み合わせは第1シード8か国、第2シードとしてアフリカ、南米、オセアニアの8か国、第3シードとして欧州の8か国、第4シードとして中南米・カリブの3か国、アジアの4か国、欧州1か国に分けられた。フランスは第1シード8か国に入り込むことができた。
  フランスの現在の世界ランキングは5位、予選は5勝5分勝ち点20という成績である。欧州からはフランス以外に開催国ドイツ、イングランド、スペイン、イタリアが第1シードに入っている。各国の世界ランキングと予選の成績を振り返ると、開催国ドイツは世界ランキング16位、予選免除、イングランドは世界ランキング9位、予選は8勝1分1敗で勝ち点25、イタリアは世界ランキング12位、予選は7勝2分1敗で勝ち点23、スペインは世界ランキング6位、予選は5勝5分で勝ち点20、プレーオフでスロバキアを下しての本大会出場という成績である。

■第1シードから外れたチェコ、オランダ

 一方、欧州で第1シードにもれた国には世界ランキングでは上記の国を上回る2位のチェコ、世界ランキング3位のオランダが上げられる。実はこの両国は予選で同組となり、オランダが10勝2分勝ち点32という成績で9勝3敗勝ち点27のチェコを押さえて首位になっている。ちなみにオランダの勝ち点32は欧州最多であり、予選のグループリーグを6チームで戦った国の最高勝ち点もイングランドの25であり、イングランドがあと2試合戦い、2試合とも勝利してもその勝ち点はオランダに及ばない。オランダの関係者にとっては納得のいかないシード国の選出であろう。
  また、予選の成績を振り返ると、10試合戦って勝ち点を20しか獲得できなかったフランスが第1シードになっているのに対し、フランスと同じ10試合で勝ち点24のクロアチアや勝ち点22のセルビア・モンテネグロ、さらには12試合で勝ち点30のポルトガルや勝ち点25のウクライナは第1シードにはなっていない。

■近年の国際大会でも振るわない第1シード国

 さらに前回大会や欧州選手権の成績を勘案したものとも思えない。前回大会では第1シードに入ったフランスとスペインはグループリーグで敗退、イングランドもベスト8どまりである。また、欧州選手権でも今回のメンバーのうち、最高の成績を残したのは準優勝したポルトガルである。
  結局、欧州からの第1シードは有力なリーグを抱えるドイツ、イングランド、スペイン、イタリア、フランスという5か国に収まった。これら5か国のリーグはワールドカップや欧州選手権の成績はさておき、欧州のサッカーを支えてきた伝統国であり、実績のあるリーグである。実力的にはこれら5か国を上回る国がありながら第1シードに入らなかったことには欧州外からも異論は少なくないであろう。特に前回大会ベスト4に入った韓国、または韓国の所属するアジア地域での世界ランキング最上位であり予選1位通過の日本、あるいは無敗で1位通過を果たしたサウジアラビアが入らなかったことに対する不満を持たれるアジアのファンは少ないであろう。

■ラグビーのワールドカップを意識し、伝統国を重視

 今回の第1シードの選考については主催者の苦悩が感じられる。近年の欧州におけるサッカーのワールドカップ離れは危機的なものがある。2002年に韓国ならびに日本で行われたサッカーのワールドカップとその翌年にほぼ同じ時差の豪州で行われたラグビーのワールドカップを比較すると、後者のほうがテレビの視聴率は高かった。ワールドカップ予選も相変わらず空席が目立つ。その危機感が今回のシード国選定を動かした。本来シード国は実力だけで選出されるべきであろう。しかしながら、実力だけで選出すると興行面で不安である。したがってある程度シード国の選出に恣意が入る。その際に興行面だけを直接的に考えるならばアジアからも第1シードが選ばれる。
  しかし、今回の主催者は直接的な利益を最優先させなかった。主催者は伝統国をシード国にすることにより競技の地位を保とうとした。ラグビー界では2011年のワールドカップの開催国に日本ではなくニュージーランドを選出し、伝統国を重視することにより競技のステータスを高めた。今回の第1シードの選考にはラグビーのワールドカップに抜かれてしまったサッカー界の焦燥感が現れたのである。(続く)

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