第1013回 最終章を迎えたグループ7(2) フランスの命運を握るセルビア-ルーマニア戦

■ヨアン・グルクフに次いでフランク・リベリーも外れる

 前回の本連載では、ワールドカップ予選の最後となる10月10日のフェロー諸島戦と14日のオーストリア戦に向けて24人の選手を発表したことを紹介した。この連戦に向けてフランス代表は5日にクレールフォンテーヌに集合して合宿に入る。ところが、この合宿前にフランク・リベリーが負傷のために代表チームから離脱することが明らかになった。前回の連載でも紹介したとおり、攻撃の中心となるヨアン・グルクフが負傷のためメンバーに入っておらず、フランス代表は攻撃の中心となる攻撃的MF2人を欠いた状態で連戦に挑むことになった。また、この2人以外の10番タイプであるサミール・ナスリも元々メンバーに入っていない。
 この事態を受け、レイモン・ドメネク監督はリヨンのFWのバフェタンビ・ゴミスをクレールフォンテーヌに呼んだ。ゴミスは昨年の欧州選手権の直前に代表から声がかかり、デビュー戦となったエクアドル戦で2ゴールという派手な活躍をした。そして欧州選手権の本大会の23人のメンバーにも残った。本大会ではルーマニア戦とオランダ戦に出場したが、これを最後にフランス代表から離れていた。クラブレベルでは初めて代表に選出された当時はサンテエチエンヌに所属していたが、代表入りなどが評価され、今夏リヨンに移籍、本連載第999回でも紹介したとおり、チャンピオンズリーグのプレーオフのアンデルレヒト戦では得点をあげている。

■「10番」不在、4-4-2システムをとるフランス

 しかしながら、ゴミスも「10番タイプ」の選手ではない。したがってドメネク監督はアンリをトップに配置した4-2-3-1システムではなく、4-4-2システムに変更する計画である。2トップはこのところの実績、ドメネク監督からの信頼を考えれば、ニコラ・アネルカとアンドレ・ピエール・ジニャックであろう。しかし、4-4-2システムをフランスが採用したのは昨年の9月、ワールドカップ予選の開幕戦であるオーストリア戦が最後である。そしてそのオーストリア戦では1-3と敗れている。この試合はグルクフ、リベリーとも出場しておらず、ナスリはサイドハーフであり、10番不在のフォーメーションであった。
 つまり、中盤の絶対的な攻撃の起点の不在によって採用した4-4-2システムへの不安は尽きないのである。

■フランスにとっての首位突破の可能性

 ところで、10月10日はフランス-フェロー諸島戦以外のオーストリア-リトアニア戦、セルビア-ルーマニア戦もフランス時間で20時45分に同時にキックオフされる。4点差でセルビアを追うフランスは、自力での首位突破は消えてしまっている。セルビアが地元で勝利すれば首位を確定できる。また、フランスがフェロー諸島に敗れるようだと、セルビアの首位が決定する。そしてセルビア、フランスともに引き分けの場合もセルビアが首位となる。
 フランスの首位突破へのシナリオであるが、フランスがフェロー諸島戦に勝利し、セルビアがルーマニアに敗れれば、両チームの勝ち点差は1となり、最終節での大逆転も可能である。
 したがって、フランスのファンにとっては自国のフェロー諸島戦以上に注目が集まるのが、ベオグラードでの試合である。セルビアの相手ルーマニアはごくわずかであるが、プレーオフ出場の可能性が残されており、セルビア戦勝利が条件である。

■東欧革命で流血を経験したセルビアとルーマニア

 ルーマニアは東西冷戦時は独裁政権下にあった。20年前に独裁者を処刑し国が生まれ変わった。一方のセルビアであるが、東西冷戦時はユーゴスラビアとしてワルシャワ条約機構にも参加せず、比較的西側に近い政策をとっていたが、東欧の自由化の後に内戦が勃発し、多くの犠牲者や難民が出るとともに、国が解体し、6つの共和国に分かれてしまった。
 今年は東欧の自由化から20周年である。東欧の自由化の中で血が流れたという点ではルーマニアとユーゴスラビアが双璧であろう。しかしながらその流血の時期が異なり、独裁者が犠牲になったルーマニア、民衆が犠牲になったユーゴスラビアと、両国で大きく異なる。
 実はユーゴスラビアとルーマニアは東京オリンピックの5位決定戦で対戦し、大阪で行われたこの試合はルーマニアが3-0で勝利している。さてフランスの命運を握るセルビアとルーマニアのベオグラードでの試合も気にしながら、キックオフを迎えるのである。(続く)

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