第1037回 ワールドカップ予選回顧 (5) 新戦力が定着しなかった前半戦

■開幕戦以降は22分間しか出場しなかったサミール・ナスリ

 前回は4人のDFラインのうちウィリアム・ギャラスとコンビを組む「もう1人のストッパー」が最後まで固定しなかったことを紹介した。初戦のオーストリア戦でフィリップ・メクセス、ギャラスの2人が全失点に絡み、ギャラスはその後も起用されたが、メクセスは予選の試合には縁がなく、ストッパーが固定しなかったことが最後の最後までフランスを悩ませた。
 メクセス同様に開幕戦に出場しながらその後、メンバーから外れたのが、2007年に代表入りし、2008年の欧州選手権にも出場したサミール・ナスリである。ナスリは2008年の夏に、マルセイユからイングランドのアーセナルに移籍する。プレミアリーグでは出場わずか6分で初ゴールという衝撃のデビューを遂げ、その直後のワールドカップ予選の開幕戦のオーストリア戦に起用される。しかしながら、次のセルビア戦以降メンバーから外され、3月のリトアニアとのアウエーの試合で終盤の22分間だけ交代出場しただけで、それ以降は親善試合も含め、代表チームの青いユニフォームを着ることはなかった。

■頻繁に選手を入れ替えたレイモン・ドメネク監督

 今回の予選は当初ライバルと想定されていた第2シードのルーマニアが失速、本来ならば第1シードのフランスが独走してもおかしくなかったが、フランス自身もなかなか波に乗ることができなかった。予選全体を通じてファンから非難の声が収まらなかったレイモン・ドメネク監督であるが、毎試合、選手を入れ替えている。
 第2戦のセルビア戦は4日前に行われた第1戦のオーストリア戦と先発メンバーを3人入れ替えている。その翌月に行われた第3戦のルーマニア戦は半数近い5人のメンバーが入れ替わっている。また、ルーマニア戦の5か月後に行われた第4戦のリトアニア戦(アウエー)も4人が入れ替わっている。このカウナスの試合で1-0で勝利し、スタッド・ド・フランスに戻ってきて同じリトアニアと戦う試合こそ1人だけの入れ替えであったが、メンバーの入れ替えが継続的に行われてきた。

■入れ替えた選手が定着しなかった前半戦

 この前半戦ではメンバーの入れ替えが継続的に行われてきたが、特徴的なことは新たに入れ替わったメンバーのうち、その後の試合に定着して出場するケースが少ないことである。例えば、守備陣が崩壊したオーストリア戦から立て直すべく臨んだセルビア戦でガエル・クリシーとエリック・アビダルが起用されたが、クリシーは予選グループ最終戦のオーストリア戦まで出番がなく、アビダルも次のルーマニア戦に連続出場してからほぼ1年ブランクとなる。また、第3戦のルーマニア戦ではアビダルを本来のサイドDFに回し、ストッパーが本職のジャン・アラン・ブームソンを起用したが、ブームソンはその後1試合も予選の試合に出場することがなかった。
 年が明けて3月28日と4月1日に行われたリトアニアとの連戦はこの予選のターニングポイントになったと第1033回の本連載で紹介したが、最初に行われたアウエーのリトアニア戦で本予選初出場となったペギー・リュインデュラとセバスチャン・スキラッチはホームで行われた試合にも先発出場したが、その後はほとんど予選の試合に出場していない。 このように前半戦のもたつきは先発メンバーを入れ替えても、その新しいメンバーが新戦力として定着しないことにあった。

■第2戦のセルビア戦以降、攻撃の中心となったヨアン・グルクフ

 例外と言えるのが、開幕戦のオーストリア戦で途中出場し、その後7試合連続して先発メンバーに名を連ねたヨアン・グルクフであろう。グルクフはボルドーの中心選手としてリーグ優勝にも貢献し、代表デビュー時はボルドーに所属していたジネディーヌ・ジダンの再来と言われた。代表チームでもクラブチームでも活躍した。予選グループ最後の2試合、すなわちプレーオフ出場を決めたホームでのフェロー諸島戦と消化試合となったホームのオーストリア戦を負傷のため欠場したが、アイルランドとのプレーオフには2試合とも出場し、全体で10試合に出場し、フランスの攻撃の中心となったのである。(続く)

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