第1126回 揺れるフランス、グループリーグで敗退(6) 離脱者続出の中で臨む南アフリカ戦

■サッカーファミリーからも非難を受けた代表チーム

 ニコラ・アネルカのレイモン・ドメネク監督へのハーフタイムでの暴言に始まり、フランスサッカー協会のアネルカのチームからの追放、そしてそれに対して選手が反発し練習をボイコットするという事態にまでなった。主将のパトリス・エブラがフィジカルコーチのロベール・デュベルヌと衝突し、両者の中にドメネク監督が割って入る映像はフランスのテレビで繰り返し放映された。
 前回の本連載で紹介したとおり、カナダのハンツビルでの主要国首脳会議を控えたニコラ・サルコジ大統領やベルナール・クシュネール外務・ヨーロッパ問題大臣はこの件に大きな関心を寄せ、チームを非難するとともに事態の収拾にあたった。そしてこの大失態に対し、代表チームOBであるジネディーヌ・ジダンも苦言を呈し、サッカーファミリーの中からも代表チームへの非難の声が高まったのである。

■最終戦に出場しなかったパトリス・エブラとエリック・アビダル

 このようなチーム状態で最後の南アフリカ戦をボイコットするという噂も流れたが、6月22日のブルームフォンテーンでの南アフリカ戦のピッチに11人の選手がそろった。もちろん、チームを追放されたアネルカは自宅のあるロンドンに戻ってしまっている。そしてチームの軸となるべき主将のエブラはこの大事な一戦を心労のため欠場、さらに守備の要であるストッパーのエリック・アビダルも今回のチームの内紛、そしてメキシコ戦での自らのミスという精神的な疲労が重なり、メンバーから外れている。

■攻撃陣は驚きの布陣

 このようにメンバーが欠けている中でドメネク監督は自らにとって最後になるであろう指揮を執ったのである。まずGKはウーゴ・ロリス、DFは左右サイドDFのバカリ・サーニャと右のストッパーのウィリアム・ギャラスは定位置であり、エブラの抜けたもう1人のストッパーにはセバスチャン・スキラッチを起用、主将のエブラのバックアップとなる左サイドDFにはガエル・クリシーを起用したのは常識的であった。そして守備的MFはそれまでの2試合はアブー・ディアビーとジェレミー・トゥーラランが担っていたが、トゥーラランに代えてアルー・ディアラを先発させる。アルー・ディアラは今大会初出場である。
 そして驚きは攻撃陣である。トップのアネルカに代えてだれを起用するかに関心は集まったが、なんとジブリル・シセを任命する。大量点での勝利が必要なフランスの攻撃的MF3人は中央にヨアン・グルクフ、右にアンドレ・ピエール・ジニャック、左にフランク・リベリーという布陣である。ジダン2世という呼び声の高いグルクフを10番の位置にようやく配置するが、ジニャックの右サイドはほとんど経験がない。

■主将は7か月ぶりに先発出場するアルー・ディアラ

 今回の混乱の原因の1つに主将のエブラのキャプテンシーの不足があげられるが、この試合の主将はアルー・ディアラである。アルー・ディアラは昨年のアイルランドとのプレーオフに出場して以来、直前の親善試合でもコスタリカ戦の後半に45分間出場しただけである。すなわち過去6試合のうち0.5試合にしか出場していない。さらに、アルー・ディアラがこの試合の主将をいきなり任せられたのであり、もちろんこれはアルー・ディアラにとっては初めてのことであり、ファンは驚いたのである。
 こういう試合にこそ本来キャプテンマークを腕に巻くべきアンリを出場させるべきではなかっただろうか。確かにアンリは昨年のアイルランドとの疑惑のハンドを契機に調子を落とし、所属チームのバルセロナ(スペイン)でも精彩を欠くことは事実である。  しかし、アルー・ディアラは所属チームのボルドーで主将を務めているとは言ってもまだ1年のことである。2008年以降代表チームで主将を務めているアンリの意地をドメネク監督は信頼していなかったのであろうか、不思議である。
 一方の南アフリカの主将はアーロン・モコエナ。10年以上前に代表にデビューし、2002年に続き2度目のワールドカップを戦う。この試合が代表104試合目となる大ベテランと初めてのキャプテンマークを着用する守備的MFのコイントスで試合は始まったのである。(続く)

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