第1127回 揺れるフランス、グループリーグで敗退(7) 先制点を許した後、ヨアン・グルクフが退場

■自力でのグループリーグ突破のない両チーム

 南アフリカは代表出場104試合目というベテランのアーロン・モコエナ、フランスは代表出場26試合目で予選突破してから初めて先発するというアルー・ディアラ、両チームの主将の対照的であるが、コイントスで勝ったのは地元の南アフリカ、コートを選択し、フランスのキックオフで試合は始まった。
 第1121回の本連載で紹介したとおり、両チームとも決勝トーナメント進出の可能性は残されているが、自力だけでは不可能である。同日にルステンブルグで行われるウルグアイ-メキシコ戦の結果も考慮しなくてはならない。ウルグアイ-メキシコが引き分けに終われば、ホスト国にも前回準優勝国にも望みは絶たれるが、ウルグアイとメキシコの試合でいずれかが勝利すれば、南アフリカおよびフランスは大量点を取って勝利すれば決勝トーナメントへの道は開ける。
 これまでのワールドカップの歴史で開催国がグループリーグで敗退したことはない。地元南アフリカのファンは相手が第1シードで前回大会のファイナリストであろうと臆することはない。崩壊したチームに対して大量点を奪って16強入りを果たそうと、ブブゼラの響きは一層大きくなる。

■大幅にメンバーが入れ替わったフランス

 フランスはメンバーが大幅に入れ替わっており、11人中5人が初先発である。さらに、ジブリル・シセ、アルー・ディアラ、セバスチャン・スキラッチ、ガエル・クリシーの4人はこの大会初登場である。この大一番にこれだけ経験のない選手がそろうと、勝利は厳しい。しかし彼らも経験はなくとも才能がある。この才能がフランスをこれまで救ってきた。立ち上がりから攻撃陣は果敢に南アフリカのゴールを襲う。 特にシセがフランス代表の先発メンバーに名を連ねるのは2008年5月のエクアドルとの親善試合以来、そしてタイトルマッチに出場するのは2007年6月のグルジアとの欧州選手権予選以来、さらにタイトルマッチの先発出場は2005年10月のキプロスとのワールドカップ予選以来ということになる。これだけ試合から離れた選手が、久しぶりの真剣勝負で頑張らないわけがない。シセは最前線で孤軍奮闘する。

■競り合いに負けてヘディングでの先制点を許す

 しかし、その緊張の糸も切れてしまう。20分の南アフリカの攻勢をフランスはCKで逃れる。このCKを南アフリカのストッパーのボンガニ・クマロがアブー・ディアビーに楽に競り勝ってヘディングでシュート、ここまで簡単にヘディングシュートを許してしまったのでは、さすがのウーゴ・ロリスも防ぐことができない。フランスは大量点が必要なはずだが、南アフリカに先制される。

■ヨアン・グルクフに不可解なレッドカード

 この先制点以降チームは崩壊する。その直後のピンチは相手のシュートミスもあって、しのいだが、相手ゴール前に迫った25分、グルクフと南アフリカの守備的MFのシバヤが競り合い、グルクフが競り合いに勝ったボールをシセがオーバーヘッドシュート、これが外れたところでコロンビア人の主審のオスカル・ルイス氏は笛を吹く。シセの危険なプレーに対する笛かと思われた。グルクフが相手選手と競り合った際のひじ打ちに対し、一発退場を命ずる。悪意を持ったプレーでもなければ、特段危険なプレーでもない。しかしながら主審からレッドカードが突き付けられたのである。おそらく多くのフランス人は本大会第1123回で紹介した1966年イングランド大会のイングランド戦を思い出したであろう。フランスの相手の南アフリカは開催国なのである。
 この不可解な判定に主将もベンチも異議を唱えない。異議を唱えたのはスタンドのフランス人、テレビのアナウンサー、そしてテレビの前の視聴者だけなのである。もちろん審判の判定に申し立てることはルール違反であるが、この時のフランスチームの反応はルールを守ったのではなく、闘争心の欠如であろう。さらにこの時のチームの反応には別の意味もあったのである。(続く)

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