第11回 「ローラン・ギャロス」とフランス・ワールドカップ

■ワールドカップ直前のフランスの華、フレンチオープン・テニス

 リーグカップの決勝、フランスカップの決勝、そしてリーグの最終節が終わると、フランスではテニスの「フレンチオープン」の季節になる。正確には「フランス国際テニストーナメント」と称するテニスの四大大会のひとつである。全英オープンがウィンブルドンと言われるように、その会場となるテニスコートの名前から「ローラン・ギャロス」とも言われている。
 ローラン・ギャロスとは第一次世界大戦時に活躍した勇敢なパイロットの名前である。ローラン・ギャロスがどの程度テニスをたしなんだかは定かではないが、個人の名前が冠されたテニスコートの中では世界で最も有名なテニスコートであることは間違いない。例年5月の最終週から6月の第一週にかけて2週間にわたって行われ、昨年は平木理化選手が日本人として初めて優勝(混合複)したこともまだ記憶に新しいであろう。

■赤土の下には魔物が棲む

 テニスの四大大会ともなればそれぞれ特徴を持つ。まず、クレーコートであること。赤土のクレーコートは球足が鈍り、ラリーが延々と続く。次に番狂わせがとても多いこと。まず、男子のシングルスで第1シードと第2シードが決勝に進出することが希であるばかりか、かなり早い段階で敗退することもよくあり、赤土の下には魔物が棲んでいると言われる。今回は男子シングルス2回戦で、第1シードのピート・サンプラス(アメリカ)が、ランキング97位のラモン・デルガド(パラグアイ)に敗れるという大波乱が起きたばかりだ。
 この番狂わせの理由には、全天候型コート全盛の今日では珍しいクレーコートであることがあげられる。しかし、シードの段階で選手の得意なサーフェースも考慮しており、珍しさという点では甲乙つけがたいローンコートのウィンブルドンで上位シード陣が決勝を争うことを考えてみれば、これは決定的な理由ではない。

■「公平性」と「テレビ中継」の所産

 むしろ敗退した上位シード選手の口からは、上位シードであるにも関わらず固定したコートで試合を続けられないことに対する不満が表れる。すなわち、ウィンブルドンで第1シードの選手ならば1回戦から決勝までずっとセンターコートで戦い続けることができる。しかし、ローラン・ギャロスでは第1シードの選手であろうとセンターコートだけで試合をするわけではなく、第1コートやAコートといったそれに準ずるコートで試合をすることが多くなる。これには二つの理由がある。
 まず、大会の公平性を期すために、上位シード選手であろうと特定のコートだけでプレーをさせないこと。これは見る側にとってはセンターコート以外の観客も第1シードの選手を見ることができることにもつながる。
 もう一つの理由は、このローラン・ギャロスを中継するテレビ局の事情による。テニス中継はフランスではフランス国営テレビが熱心であり、これ以外のデビスカップやその他のテニストーナメントをよく中継している。このフランス国営テレビは2チャンネルと3チャンネルの二つのチャンネルを持っている。これは大きなアドバンテージで、ローラン・ギャロスの期間中、二つのチャンネルで異なったコート(通常はセンターコートとAコート)から同時に中継をしている。したがってテレビ局(主催者)としては人気者の選手をセンターコートだけではなくそれに準ずるコートで試合をさせても視聴者を満足させることができる。
 このような理由から上位シード選手がセンターコート以外でプレーをする機会が多くなり、しばしば足下をすくわれるのである。

■「ローラン・ギャロス方式」を採用したグループリーグの転戦方式

 このローラン・ギャロスの試合形式は実は今回のワールドカップにも影響を与えている。すなわち、上位シード国であってもこれまでの大会と異なり、グループリーグの試合はすべて異なる都市で行う。フランスがワールドカップの招致活動を行っている段階ではそれまでの大会同様、二つの都市で1グループを担当し、3試合ずつ行う予定だった。
 しかしながら、その後この「ローラン・ギャロス方式」を取り入れ、いかなる国もグループリーグの段階では同じ都市では試合をしないような方式に変更された。また、見る側にとっても一つの都市で数多くのチームを見ることが可能となり、「FRANCE PASS 98」という通し切符のマーケティングを可能としたのである。もちろんこれは公平性や、マーケティングの面からのアイディアであるが、フランス国内に張り巡らされた交通網の整備とも無関係ではないであろう。
 さて、ワールドカップの期間中フランスは緑の大地となる。この緑の大地の下に潜んでいるのは魔物か、それとも勝利の女神なのだろうか。

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