第16回 フランス人が予想した決勝トーナメント進出国

 「フランスの35日間」と言われるワールドカップも、6月26日でグループリーグの熱戦48試合が終了し、ちょうど半分となる18日めの6月27日からいよいよ決勝トーナメントに突入した。

 さて、決勝トーナメント進出国は順当なものであっただろうか。フランスを代表するスポーツ紙「レキップ」(フランス語で「チーム」という意味)は、決勝トーナメント進出の可能性について2度予想記事を出している。何事も数字で表現したがるフランス人ではあるが、サッカーに関してはオッズという賭け率ではなくパーセントという確率で表現する。この国ではまだスポーツがスポーツとして存在している証であろう。

■レキップ紙の二度の予想記事からわかること

まず最初の予想は1997年12月5日、すなわちマルセイユで行われた組み合わせ抽選会の翌日の紙面である。これによると各国の決勝トーナメント進出の可能性は以下の通りであった。
A組 ブラジル80% ノルウェー45% スコットランド40% モロッコ35%
B組 イタリア75% オーストリア45% チリ40% カメルーン40%
C組 フランス75% デンマーク65% 南アフリカ35% サウジアラビア25%
D組 スペイン60% ナイジェリア60% ブルガリア45% パラグアイ35%
E組 オランダ85% ベルギー45% メキシコ40% 韓国30%
F組 ドイツ80% ユーゴスラビア70% 米国25% イラン25%
G組 イングランド70% ルーマニア60% コロンビア45% チュニジア25%
H組 アルゼンチン90% クロアチア80% 日本20% ジャマイカ10%
そして二度目の予想は開幕前日の1998年6月9日であり、以下の予想をしている。
A組 ブラジル70% ノルウェー70% モロッコ40% スコットランド20%
B組 イタリア75% チリ45% カメルーン45% オーストリア35%
C組 フランス80% デンマーク50% 南アフリカ40% サウジアラビア30%
D組 スペイン70% ナイジェリア60% パラグアイ40% ブルガリア30%
E組 オランダ90% ベルギー65% 韓国25% メキシコ20%
F組 ドイツ80% ユーゴスラビア70% 米国45% イラン5%
G組 イングランド70% ルーマニア55% コロンビア45% チュニジア30%
H組 アルゼンチン90% クロアチア85% 日本15% ジャマイカ10%

 この二つの予想を読者はどのように思われるであろうか。
 まず、優勝の可能性の高いチームが必ずしも予選リーグ突破の可能性が高いわけではないということにお気づきであろう。グループリーグというリーグ戦と決勝トーナメントというノックアウト方式のカップ戦を、フランス人が区別して考えていることがわかる。
 また、半年以上たっても予想が基本的に大きく異なっているわけではないことも指摘できる。抽選会翌朝の記事と言うことは、組み合わせが決定してから数時間以内に情報収集と分析がなされていることを意味している。そして、半年以上経過した段階のものと変わらないということは情報収集の基礎能力の高さを感じさせる。ちなみに決勝トーナメント進出国の確率の合計は二度の予想とも1050%(=平均65.6%)であった。

■半年間で評価を上げたチーム、下げたチーム

 しかしながら、国別にみると評価を高めたり下げている国が見受けられ、基本的な戦力の評価とともにこの半年間の成績も加味されている。
 例えば評価を上げたチームとしては、ノルウェーがあげられる。トーナメント進出の確率を45%から優勝候補の筆頭と目されるブラジルと同じ70%に伸ばした。ノルウェーは予選を無敗で乗り切った数少ないチームであるが、年が明けて2月25日にはフランスが初戦を戦うマルセイユで3-3の引き分け、3月25日にベルギーに引き分けた後はデンマーク、メキシコ、サウジアラビアに大勝したことが評価された。決勝トーナメント進出を決めたブラジル戦の逆転勝ちは感動的であった。
 また同様に評価を高めたのがベルギー(45%→65%)であった。予選ではオランダに連敗し、プレーオフでアイルランドを下して出場権を得たため決して評価は高くなかったが、6月に入ってからの練習試合でコロンビアとパラグアイに完勝したのが評価された。ところが本大会のパリでの最終戦では、予選落ちして監督が更迭された韓国との死闘の末、ポテトチップスの袋を落とすことになった。(本連載のバックナンバーの第10回を参照)また、米国(25%→45%)も3戦全敗であったが、2月のゴールドカップでめざましい成績を残し、評価をあげた。
 逆に評価を下げた国の代表としてはスコットランド(40%→20%)、メキシコ(40%→20%)、イラン(25%→5%)があげられる。いずれも同一グループに先述したように評価をあげたチームがあることも理由としてあげられるが、準備試合の成績が今一つ不振であったことが最大の理由である。
 スコットランドは今年になってから勝ち星がない。メキシコも精力的に親善試合をこなしてきたが、3月以降ワールドカップ本大会出場国相手に勝ち星をあげたのは非公開の日本戦のみ。しかしながら本大会では格下の韓国に勝ち、二強相手は引き分けとサクセスストーリーをおさめた。また、イランに関しては3月のフランス遠征ではナントを破るなど、評価は悪くはなかったが、5月20日のASローマ戦で大敗、フランスでも実績のある名将トミスラフ・イビッチ監督を更迭したのが評価を著しく下げることにつながった。

■さあ、いよいよベスト16によるノックアウトに突入

 結局、決勝トーナメントに進出したのはブラジル、ノルウェー、イタリア、チリ、フランス、デンマーク、ナイジェリア、パラグアイ、オランダ、メキシコ、ドイツ、ユーゴスラビア、ルーマニア、イングランド、アルゼンチン、クロアチアの16か国。数学の国フランスで確率の高い国が、ほぼ出そろう形となった。
 いよいよ決勝トーナメント。97年12月6日付けのレキップ紙の予想によると決勝はフランス対ブラジル、フランスの初優勝となっているが、どうなるであろうか。

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