第26回 FCロリアン、1部リーグ初勝利が大金星!

■パリサンジェルマンに逆転勝ちした小クラブ

 1998年4月18日、フランス・サッカーの歴史に新たな1ページが加わった。8,000人の地元観衆の声援を受けたFCロリアンは1-0でヴァスケルを破り、勝ち点を72にのばし、4試合を残して2部リーグで3位以内を確定、1部リーグに初昇格を決めたのである。ロリアンは1944年のフランス解放以来の歓喜の夜となった。
 そして、8月29日、首都パリに乗り込んだロリアンは連勝中のパリサンジェルマンに堂々の逆転勝ち、記念すべき1部での初勝利は41,109人のパリジャンの前での大金星となったのである。
 今季、1部に昇格したのは、ロリアン以外にフランス東部のソショーとナンシー。ソショーは90年代初めまで約30年間1部でプレーした古豪、しばしば欧州三大カップにも出場している。またナンシーはミッシェル・プラティニを育てたロレーヌ地方の名門である。この復帰組と比べブルターニュ半島のロリアンはクラブ結成以来初めて1部に昇格し、ファンの喜びもひとしおであった。これで1932年にリーグが発足してから1部でプレーするクラブは通算して64チームとなった。

■粘り強く、勇敢な気質のブルターニュ人

 その厳しく美しい自然に恵まれたブルターニュは、そこに住むブルトン(ブルターニュ人のこと)の粘り強く、勇敢な気質に大きく影響されている。ブルターニュは多くの軍人を輩出する土地でもある。ブルターニュではブルトン語というスコットランドのケルト語の影響を受けた方言が話され、ケルト文化の影響も強く、名字も独特のものが多い。ロリアンは独特の文化を持つブルターニュ地方から8番目の1部リーグのチームとなったのである。
 選手登録数では国内で3番目となるブルターニュ地方のサッカーは、近年厳しい現実に直面している。最西端にあるブレストが1991-1992年のシーズン途中に解散した。蛇足であるが、当時ブレストに所属していたダビッド・ジノラはこの解散を機にパリサンジェルマンに移籍したのが功を奏し、代表に定着する。また、カンペールも解散をしている。したがって、独立心旺盛なブルターニュ半島で唯一の1部チームとして、ロリアンに集まる地元の期待は大きい。

■チーム予算は跳ね上がったが、1部では小規模

 さて、初昇格を決めたロリアンであるが、1部で戦うには決定的に不足しているものが2つある。まず、1部リーグでの経験が不足していること、そして財政的な問題である。
 経験不足に関しては選手の補強もあるが、戦いながら成長していくことが最良の道である。一方、財政面では、昨年の年間予算はわずか1,500万フラン(約3億7500万円)であり、月給5万円というレギュラー選手もいた。1部に昇格して2,700万フラン(約6億7500万円)のテレビ放映権収入、スポンサー収入の上昇などもあり、今季の年間予算は6,600万フラン(約16億5000万円)に跳ね上がったが、それでも1部では最も財政的に小さなクラブである。ロリアンには約20社のスポンサー企業があるが、ルイ・ルガロ会長は1部昇格を決めた翌々日には各スポンサー企業を訪れ、スポンサー料の値上げを打診している。従来地元企業がほとんどだったスポンサー企業に全国型企業のスポンサーを少なくとも1社加えるために、1部昇格を決めたヴァスケル戦にパリの有力な財界人を招待し、今季のメインスポンサーであるジャン・フロッシュとの契約を手に入れた。
 このような財政面の改善により、プロのクラブとして必要な経理担当者、チケット担当者、マーケティングディレクターなどを選手に先んじて採用したのである。

■スタジアムの改修計画も進んでいる

 選手の補強に関しては監督のクリスチャン・グルクフに一任された。1部に昇格すると監督や主力選手に大物を起用したがるのがクラブ経営者の常である。しかし、1991年に就任してから2部および1部昇格を達成したグルクフをルガロ会長は高く評価し、フランス最大のクラブであるパリサンジェルマンからのオファーもあったグルクフ監督を引き留めた。選手の補強についてもGKのアンジェロ・ウーグなどを獲得した。
 しかしながら、クラブの努力が一朝一夕に実らないこともある。ホームスタジアムのキャパシティである。1部に昇格することがなかったロリアンのホームスタジアム、ムストワールは収容人員10,470人であり、1部の規格には達していない。ロリアンはこのスタジアムを3期に分けて増築する。まず第1期はこのシーズンオフ、収容人員を17,500人に増築した。しかし、このうち座席はわずか8,600席しかないため、シーズン中の8月から来年1月にかけて第2期工事を行い、座席を14,500席にし、ようやく1部の規格に達する。
 そして、来年から3年かけて22,000人収容のスタジアムにするのが第3期工事である。周囲にプロチームのない地元ファンの期待は大きく、前々回の連載で取り上げたとおり、開幕前にすでにシーズンチケットは5,100枚の予定枚数を完売している。

■フランスリーグは欧州の中でも1部の下位チームのレベルが高い

 ところで、ロリアン初勝利までの道のりを簡単に紹介しよう。8月7日の開幕のモナコ戦はCanal+で放映され、ロリアンのホームのムストワール・スタジアムは14,000人の観衆で埋まった。前半23分にエースのアルジェリア代表のアリ・ブアフィアのゴールで先制したが、後半早々に同点にされ、ロスタイムには不運なPKを決められ逆転負けした。
 昨季優勝のランスに乗り込んだ第1節はブアフィアのゴールで引き分けに持ち込み、第3節でリヨンに惜敗(ホーム、0-1)し、冒頭で述べたとおり、ついに第4節では敵地パルク・デ・プランスでパリサンジェルマンに2-1と逆転勝ちして初勝利。強豪チームとの4連戦を終えての13位は上々の成績である。
 1部下位チームのレベルがイングランドと並んで欧州で最も高いと言われているフランスリーグ。今年もおもしろくなりそうである。

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