第27回 沈滞するワールドカップ後のフランス・サッカー

■8月のオーストリア戦には、新たな2人のメンバー

 フランスのサッカーがおかしい。ワールドカップ優勝以降、代表チームもクラブチームも沈滞している。代表チームは、7月末にロジェ・ルメール新監督が就任し、2000年の欧州選手権を目指すべく、新チームをスタートさせた。新チームとはいってもワールドカップを獲得した選手の中で代表からの引退を表明した選手はおらず、キャプテンマークも引き続きディディエ・デシャンが付けている。8月19日のオーストリア戦、9月5日のアイスランド戦はいずれもアウエーゲームであったが、ドローに終わっている。
 テストマッチであるオーストリア戦のほとんどのメンバーは、ワールドカップの栄光のイレブンであった。ワールドカップの栄光を知らないメンバーは、昨季優勝のランスから初めて代表入りしたトニー・ベレルとフレデリック・デウ。復活組は、先発のセンターフォワード(4-3-3システムを採用)に今季好調のボルドーからリリアン・ラスランド、マルセイユのFWのフロリアン・モーリス、パリサンジェルマンのDFのアラン・ゴマの3人が名を連ねた。また、ワールドカップ本大会で出場の機会に恵まれず、パリサンジェルマンに復帰したベルナール・ラマがゴールマウスを守った。

■自国リーグとイタリアリーグに所属する選手との断層

 フランスに限らず、最近の欧州では「ワールドカップや欧州選手権が終わったら代表から引退する」という選手は減っているが、今回の対戦相手のオーストリアでは、90年のイタリア大会から今回のフランス大会まで攻撃陣を支えてきた大スター、アントン・ポルスターとアンドレアス・ヘルツォーグが引退した。しかしながら、オーストリアの戦後最高のスターであり、93年に監督に就任したヘルバート・プロハスカ監督は、フランスでの屈辱を次回の欧州選手権ではらすべく、指揮をとり続けている。
 そして、フランスは中盤では互角に戦ったものの、枠に飛んだシュートはわずか2本、幸運にもこれが2本とも得点に結びつき、ようやく引き分けたのである。
 この試合で新たに浮かび上がった課題は、国内リーグに所属する選手と外国のリーグ(特にイタリア)の間の断層である。フランス・サッカーの本流であるルメール監督の戦術を最もよく理解していたのはボルドーのラスランドであり、ランスのベレルであり、ワールドカップにも出場しておらず、代表歴は乏しいが国内リーグで活躍してきた選手であった。以前は国内で成長して大成してからイタリア・リーグに移籍する選手が多かったが、ボスマン判決以降、若くしてイタリアに移籍し、イタリア流で成長する選手が出てきたという状況の変化に対応する必要が出てきたのだ。
 また、イタリアのリーグ開幕はフランスに比べて1カ月以上遅いということもあり、8月の段階でイタリアリーグ所属の選手の調整は遅れ気味であった。9月になって大きく状況は進展しているはずだと国民の多くが期待する中、フランスサッカーの今世紀最後のチャレンジはレイキャビクで始まった。

■中盤を支配するも、アイスランドの堅守を崩せず

 ホームのアイスランドが青いジャージを着用するため、フランスは白いセカンドジャージを着用した。ワールドカップ優勝を記念して胸の協会マークの上に金色の星が一つ入った。また、固定番号ではなく、以前のように先発選手は名前の入っていない1番から11番のジャージを着用している。低迷の続く代表チーム同士の国際試合に対するUEFAの措置であろうか。
 注目のスタメンはGK(ラマ)と3人のFW(ラスランド、クリストフ・デュガリー、ロベール・ピレス)のみがフランスリーグの選手、MFとDFは外国リーグの選手で構成された。一方的に攻めるがなかなか得点に結びつかず、33分にはセンターライン付近からのFKに対してGKとCB(ローラン・ブランとマルセル・デサイーの出場停止があらかじめわかっていたため、8月19日のオーストリア戦からリリアン・チュラムとフランク・ルブッフがCBのコンビを組んでいた)との連携も悪く、ダダソンに先制ゴールを決められる。
 3分後にはジネディーヌ・ジダンが個人技で左サイドを突破、折り返したところをピレスがシュート、はね返ったところをデュガリーが押し込んで同点、クロアチアとの準決勝の再現かと思われたが、後半に入るとアイスランドは守りを固め、唯一のシュートを得点に結びつけ、ワールドカップ後の最初の公式戦で世界チャンピオンから勝ち点1を獲得したのである。
 欧州ではワールドカップ終了後すぐに国際試合が待ち受けているが、優勝チームの優勝直後の成績は実はあまり芳しいものではない。1990年大会の覇者ドイツは8月末にポルトガルと引き分け、1982年のイタリアは10月にスイスに敗れている。

■フランスのクラブチームも欧州のカップ戦で苦戦が続く

 一方、フランスのクラブチームにとっても非常に厳しい夏の陣となった。UEFAランキングの上位国であるためリーグ2位のメッスがチャンピオンズリーグの予備戦に出場したが、セミプロ集団のHJKヘルシンキに1敗1分で敗れる。いままでチャンピオンズリーグと前身のチャンピオンズカップで、フランスのチームがこれだけの弱小チームに1試合負けたことはあっても2試合通算で負けたことは、25年前にデンマークのベジルに負けたナントまでさかのぼらなくてはならない。
 UEFAカップの予選という位置づけにあるインタートトカップにもオセール(リーグ7位)とバスティア(9位)が出場した(リーグ8位のパリサンジェルマンはフランスカップを獲得し、カップウィナーズカップに出場)。しかし、オセールは3回戦、バスティアは4回戦敗退、1995年の創設以来常にUEFAカップの出場権を獲得していたフランス勢にとって初めてのショックであった。
 特に過去5年の成績が対象となるUEFAランキングは、5年前に丁度マルセイユが王座を譲り、アヤックスの復活時期とも重なるため、フランスのランキングが一気に6位以下に落ちる可能性もある。
 そのUEFAランキングを決める欧州三大カップの本戦もいよいよ9月第3週には開幕する。沈滞ムードを打破することができるであろうか。

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