第78回 フランスリーグ、新会長を選出

■フランスリーグの行方を左右する会長選挙

 フランスがワールドカップに続き「二冠」を達成した欧州選手権の余韻もさめない7月6日、世界中のサッカーファンは2006年のワールドカップ開催地を決定するチューリッヒでの選挙に注目していた。しかしながら、フランスではこの2006年のワールドカップ開催地の決定よりもパリのポルト・マイヨーのホテル・メリディアンで行われたフランスリーグの会長選挙の方がはるかに注目を集めていたのである。
 フランスリーグの会長は選挙で選出され、任期は4年。1991年以来ノエル・ルグラエ氏が2期にわたって務めており、3選を狙っていた。一方の対抗馬はオセールの元副会長のジェラール・ブルゴワン氏である。
 この選挙が注目を集めた理由は、今後のフランスリーグのあり方について現在リーグ内部で意見が二分されており、今後のフランスのクラブの運営方針に大きな影響を与えると予想されたからである。会長選挙は、今後のフランスリーグの運営方針を問うものとなった。

■選手にとって経済的魅力のない自国クラブ

 選挙の構図としては、小規模なクラブが擁立するルグラエ氏とビッグクラブが推すブルゴワン氏というものである。選挙の争点は非常に明白であり、テレビ放映権収入の分配方法である。各クラブに均等に配分することを主張したルグラエ氏に対し、ブルゴワン氏はビッグクラブに配慮した分配方法を主張した。
 前回の本連載でもお伝えしたとおり、フランスのクラブチームの欧州内における地位は相対的に地盤沈下している。これはフランスのクラブが選手に対して経済的な魅力を持っていないからである。欧州選手権制覇を果たしたメンバーのうちフランスのクラブに所属する選手はわずか8人であったが、大会後、ファビアン・バルテス(モナコ→マンチェスター・ユナイテッド)、ジョアン・ミクー(ボルドー→パルマ)、ロベール・ピレス(マルセイユ→アーセナル)、ダビッド・トレズゲ(モナコ→ユベントス)と、4人の選手が早々とフランスを去っていった。37歳と高齢のベルナール・ラマはブラジル移籍を希望し、ボルドーのシルバン・ビルトールも国外移籍を希望している。大物外国人選手もフランスリーグから姿を消して久しい。
 いくら国外のリーグでフランス人選手が鍛えられ、代表チームとして輝かしい成果を残したとしても、日常のリーグに国を代表する選手が所属していないという状況を受け入れるだけの寛容さを、全てのファンが持ち得ているとは言い難い。

■クラブ間の平等か、ビッグクラブの優遇か

 このような選手の国外流出の最大の理由は、フランスのクラブが経済面で他国のビッグクラブに比べて魅力がないからである。これは税制面などにも起因しているが、テレビ放映権収入がビッグクラブにもそうでないクラブにも平等に配分されていることが、フランスのビッグクラブに大物選手が魅力を感じない理由である。平等を前面に打ち立てた結果、優秀な選手が隣国のビッグクラブに移籍してしまうことを問題視しているリヨンのジャン・ミッシェル・オラス会長、モナコのジャン・ルイ・カンポラ会長、ランスのジェルベ・マルテル会長が擁立したのが61才のブルゴワン氏なのである。
 この考え方にはパリサンジェルマン、マルセイユ、ボルドーなどのビッグクラブだけではなくフランスのクラブのレベルの低下を危惧している2部のアジャクシオ、カンヌなども同調している。
 一方、現職のルグラエ氏は当時2部であったガンガンの元会長であり、1993年以来同市の市長である。前会長のジャン・サドウル氏を受けて会長職をつとめており、教員、選手、審判、事務局が支持母体である。クラブの経営形態の変更、クラブの経営の健全化、テレビ放映権料の契約の更改、公的資金の援助の維持などの功績に加え、1992年に発生したバランシエンヌとマルセイユの八百長疑惑事件の処理に関して高い評価を受けていた。

■「ビッグクラブがそうでないクラブを飲み込んでしまう」

 リーグ会長選の立候補者は特定のクラブに所属してはならないため、ブルゴワン氏はオセールの副会長職を辞任し、選挙に臨んだ。「理想」が勝つか、「現実」が勝つかという中で、4時間にわたる選挙の結果、有効投票数88、ブルゴワン氏45票、ルグラエ氏43票という僅差で新会長が誕生したのである。
 ブルゴワン氏が僅差で会長になったことに対し、理事会メンバー23人のうちブルゴワン氏に投票した理事が12名、ルグラエ氏に投票した理事が11名と、政権の不安定さを指摘する声に加え、20年にわたってオセールというクラブの副会長を務め、このような中央での未経験を危惧する声もある。ブルゴワン氏の就任によって「ビッグクラブがそうではないクラブを飲み込んでしまう」「理想を捨てたフランスのサッカー界はもうおしまいだ」、というような声も聞かれる。オセールの監督を辞したばかりのギ・ルーの「以前はサッカークラブの会長というものはサッカーをするためにお金を探してきた。しかし現在はお金のためにサッカーボールを探している会長しかいない」というのコメントが印象的である。
 しかし、ボスマン判決以降「10歩隣国に遅れをとった」と言われるフランスのサッカー界が、ビッグクラブを待望する声を代表した新会長を選んだのである。この新会長就任を受けて、パリサンジェルマンは、2億フランというフランス・サッカー史上最高の移籍金でニコラ・アネルカをレアル・マドリッドから復帰させ、ラマもレンヌが獲得した。この結果、欧州選手権を制したメンバーで新シーズンにフランスでプレーするのはこの2人に加え、ボルドーのシルバン・ビルトール、クリストフ・デュガリー、ウルリッシュ・ラメと総計5人である。ブルゴワン氏の力量が問われるフランスリーグは、7月28日、ビッグクラブ復活を願うファンで真っ青に染まるベロドロームで、マルセイユがトロワを迎えて開幕するのである。

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