第79回 U-18欧州選手権とハイティーンの活躍

■ワールドユースへの出場権が与えられる大会

 欧州選手権を制覇してその3週間後、フランス国内はツール・ド・フランス一色となったが、ドイツのニューレンベルグを中心として行われたU-18(18歳以下)欧州選手権で再びフランス代表が欧州を制した。
 ドイツには予選を勝ち抜いた8チームが集まり、フランスも予選13組でスコットランドとアルメニアを下し本大会に出場した。グループAは開催国のドイツ、ウクライナ、オランダ、クロアチア、グループBはフランス、チェコ、ロシア、フィンランドという組み合わせとなった。前回大会の優勝国ポルトガルと準優勝国イタリアの姿はなかった。グループリーグの1位同士が決勝、2位同士が3位決定戦を争う。また各グループの3位までのチームは来年アルゼンチンで行われるワールドユースの出場権を獲得する。
 この大会は1981年に始まり、隔年で開催されたこともあったが、1992年からは毎年開催されている。初代王者は西ドイツ、フランスは第3回に当たる1983年大会で優勝している。その後、1996年、1997年とフランスは連覇を果たし、最多優勝回数を誇っている。1996年大会の中心となったのは、欧州選手権での活躍も記憶に新しいダビッド・トレズゲ、ティエリー・アンリ、ニコラ・アネルカという若手の攻撃陣である。
 18人の若い選手を率いるのはジャック・クルボワジエ。1997年にマレーシアで行われたワールドユースへの出場権を獲得した際にもジェラール・ウリエのアシスタントとして活躍した、ユース世代の指導者である。

■混戦のグループリーグを抜け出し決勝へ

 フランスは、大会前の8試合で5勝2分1敗、わずか1失点という好成績でドイツ入りしたが、7月17日の初戦で最も弱いと思われていたフィンランドに1-2と力なく逆転負けを喫し、アルゼンチン行きの切符も遠のいたかと思われた。そして第2戦では初戦でロシアと引き分け、ブルージュで敗れた兄貴分のリベンジを狙うチェコと対戦した。この試合では、18分にリオネル・マティスが先制点をあげるが、54分にはポルトガル人の主審のパラティ氏がフランスDFのグレゴリー・ビニャルに2枚目のイエローカード、フィリップ・メグゼにレッドカードを提示し、フランスは2人のフィールドプレーヤーを失うことになる。このポルトガル人の判定にフランス側が猛烈な抗議をしたのは言うまでもない。しかし、2人足りないフランスは兄貴分顔負けの鉄壁の守備を見せて1点を守り抜き、息を吹き返したのだった。
 2試合を終了して1位はフィンランド(勝ち点4、得失点差+1)、2位フランス(3、0)、3位ロシア(2、0)、4位チェコ(1、-1)ということで、最終戦の結果によってはフィンランド以外のチームに1位から4位までの可能性があるという混戦となった。最終戦でフランスは欧州選手権予選の復讐に燃えるロシアに2-0と快勝、そしてフィンランドがチェコに2-3で敗れたため、フランスはグループBの首位となり決勝に進出したのである。
 7月24日にニューレンベルグのフランケンスタジアムで行われた決勝の相手は、グループリーグで2勝1分と参加国の中で唯一無敗のウクライナ。ロシアに続き欧州選手権予選でのライバルである。3万2000人の観衆を集めて行われた試合はなかなかゴールシーンが見られない。この試合の均衡を破ったのは67分に交代出場したエルベ・ブニェ。ドリブルでウクライナGKのルーデンコをかわし、ゴールネットを揺らした。この値千金のゴールがフランスに4度目の栄冠をもたらしたのである。

■18人の登録選手のうち17人が出場

 この優勝にはいくつかの意味がある。本連載の第60回でご紹介したとおり、ちょうど一つ上の世代にあたるU-21(21歳以下)欧州選手権ではベスト8決定戦でイタリアに敗れ、オリンピック出場権を逃している。したがって、フランスは是非ともアルゼンチンで行われるワールドユースには出場したかった。そしてそれが優勝という素晴らしい成績で達成されたことに大きな意味がある。
 次に、エントリーした18人の選手全員がフランスリーグに所属している選手であったことである。しかも彼らのうち1部リーグの試合に出場経験のある選手は非常に少ない。欧州では選手の青田買いが横行しており、この世代の選手ですでにイタリアやイングランドのビッグクラブにスカウトされている選手もいる。しかし今回は国内の選手だけでチームを編成し、フランスらしいチームを作り上げたのである。そして初戦のフィンランド戦に敗れたことから決して気の抜ける試合はなかったが、終わってみれば18人中17人が試合に出場していた。出場機会がなかったのはキャプテンマークをつけていたGKのニコラ・プヌトーの控えに回っていたジェレミー・ソパルスキーだけであった。国内のリーグ戦ですら出場機会が少ない彼らにとって、国際試合しかも緊迫した展開の経験は今後のキャリアに大きなプラスとなるであろう。

■ラグビーとバスケットボールの同世代の活躍が発奮材料に

 さて、下馬評では必ずしも優勝候補ではなかったフランスが優勝したことには隠れた理由がある。実はこの大会より一足先にクロアチアで開幕したバスケットボールの第19回欧州ジュニア選手権でフランスは決勝に進出、7月23日の決勝では地元クロアチア相手に延長で65-64と競り勝ち、ブダペストで行われた1992年大会以来2度目の欧州チャンピオンとなったのである。若年層に人気のあるバスケットボールでの同世代の優勝の知らせを聞いてイレブンが発奮しないはずはない。
 また、この伏線は4月にフランスで行われたラグビーの第32回ジュニア世界選手権にもあった。19歳以下の選手で争われるこの大会で、第6シードのフランスは前回3位で第3シードの南アフリカを25-5と破り、準決勝では前回準優勝のウェールズを29-0と完封する。そして決勝の相手は、昨年のワールドカップ決勝で苦汁を飲んだオーストラリアである。ディジョンでの決勝はセンターのギヨーム・ブーセなどの活躍で14-0と勝利。カーディフでの仇を討ったかたちとなり、優勝を決めたのである。
 ラグビーとバスケットボールでの同世代の活躍がイレブンにも刺激を与えたわけだが、このフランスのハイティーンの素晴らしい成績は特筆すべきであり、数年後の彼らの活躍が今から楽しみである。

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