第84回 留守番部隊、パルクで日本代表とドロー

■上位と下位の差が開いてきた時点でのリーグ中断

 7月28日に開幕し、世紀を越えて来年5月19日までの10カ月間に34試合が行われるフランスリーグ。原則的に毎週末試合が行われているが9月30日の第10節を終了し、2週間の休息が与えられた。年が明けるとフランスカップ、リーグカップなどに1部リーグのチームも参戦することから、リーグのインターバルが2週間以上空くことがしばしばあるが、今回は年内では唯一の2週間のインターバルとなる。これは、フランス代表の試合が10月4日(カメルーン)と10月7日(南アフリカ)と組まれているため、10月7日の週末にリーグ戦が行われないためである。
 リーグ戦は約3分の1を消化して、上位チームと下位チームの間の差が開いてきた。第10節を終了して首位を走るのは6勝1分3敗で勝ち点19のバスティア、これを追うのはパリサンジェルマン(5勝3分2敗、勝ち点18)、ランス(4勝4分2敗、勝ち点16)などである。序盤つまずいた前年の覇者モナコも5位に浮上してきた。期待されたマルセイユ、ボルドーは中位をさまよっている。一方、今季2部から昇格してきたトゥールーズは最下位(1勝3分6敗、勝ち点6)で、9月30日の試合でオセールに負けた直後、アラン・ジレス監督を解任している。

■リーグ中断期間中の合宿と練習試合

 チームの成績に明暗が分かれてきたこの時期にリーグ戦から解放されることは、チーム修正のための貴重な機会となる。フランスをはじめとする各国の代表選手は、それぞれの代表チームに合流することになるが、「留守番部隊」だけで合宿や練習試合を行い、リーグ再開に備えた。1部リーグ所属の18チームでこの時期に合宿を行ったのは5チーム、マルセイユはポルトガル、リールはベルギーと国外まで足を伸ばしたチームもある。また練習試合はほとんどのチームが行い、合宿も練習試合も行わなかったのはガンガン、レンヌ、トロアの3チームだけであった。
 練習試合については、マルセイユはポルトガル合宿中にベンフィカ・リスボンと対戦、モナコはレアル・サラゴサ(スペイン)、首位を走るバスティアはボローニャ(イタリア)、最下位脱出を図るトゥールーズはサンタンデール(スペイン)と対戦するように、ほとんどは国外のクラブチームが相手である。また、本拠地以外のファンも開拓するという意味で合宿地や近隣のスタジアムで試合を行い、通常利用しているホームスタジアムで試合を行うケースは少ない。

■日本代表と練習試合を行ったパリサンジェルマン

 このような中で異例の練習試合を行ったのが10月13日に宿敵マルセイユを迎え討つパリサンジェルマンである。ポルトガル合宿でチームの団結を図り、相性のいいライバルチームを下して一気に上位進出をもくろむマルセイユに対して、パリサンジェルマンはアジアカップを目前に控えた日本代表と練習試合を行った。10月12日に開幕するアジアカップは欧州における欧州選手権に相当する大会で、ワールドカップとならぶタイトルであろう。
 1992年以来2回目の王座を目指す日本代表は、現在地球上で最もコンディションの良いチームの一つであり、翌週末にマルセイユ戦を控えたパリジャンが挑戦するには格好の相手である。通常、パリサンジェルマンもシーズン中の練習試合は練習場のあるサンジェルマンアンレーかパリ近郊のスタジアムを使用する。しかし、今回はホームスタジアムのパルク・デ・プランスを使用した。パリサンジェルマンがシーズン中に練習試合でパルク・デ・プランスを使用するのは昨年9月以来のカメルーン代表戦以来のことである。アジアの代表チームと練習試合を行うのも、1980年代にイラン代表とシーズン前のパリ・トーナメントで対戦して以来10数年ぶりのことである。
 一方、日本代表がフランスのクラブと試合を行うのは1998年ワールドカップ・フランス大会直前のグーニョン戦以来のことであり、本連載の第13回で紹介したとおり、日本国内での対戦としてはトゥールーズ(1984年5月)、ボルドー(1985年1月)がある。それよりも前の1981年6月に中立地の韓国でシャトールーと対戦し、これがフランスのクラブチームと日本代表との初顔合わせである。そのシャトールーが、現在はパリサンジェルマンの系列チームであるというのは何かの因果であろうか。

■主力を欠きながらも終了間際に追いつきドロー

 さて、10月8日17時、パルク・デ・プランス。日本代表の伝統の白いユニフォームは長袖である。この日が日本の暦で寒露、炉開きとなっているのがよくわかる。1万5000人の観衆は今季最少とはいえ練習試合となれば仕方のないことであろう。
 パリサンジェルマンからは、フランス代表にニコラ・アネルカ、ローラン・ロベール、リオネル・レティジの3人が選出されているほか、10月6日にオーストリアと対戦したU-21代表に今季マルセイユから移籍してきたステファン・ダルマ、ペテール・リュクサンが選出されている。また、アリ・ベルナビア(アルジェリア)、アリウ・シセ(セネガル)はアフリカ選手権予選に出場するため、合計7人の主力選手を欠く布陣となった。メンバーの中には初めてパルク・デ・プランスで試合を経験する選手も多く、28才で最年長のジミー・アルジェリーノがチームを統率し、本連載でも紹介したU-18欧州選手権優勝メンバーで今季カーンから移籍してきたベルナール・メンディ、チャンピオンズリーグのバイエルン・ミュンヘン戦で終了間際に決勝点をあげたローラン・ルロワ、久々に出場機会を得たロシア代表のイゴール・ヤノフスキーとナイジェリア代表ゴドウィン・オクパラなどがメンバーに加わっているが、役者不足の感は否めない。
 今回の中断期間中に7人もの選手を各国の代表に送り込んでいるチームはパリサンジェルマンだけである。さらに控えGKのドミニク・カザグランド、モロッコ代表のタラル・エルカハクーリ、ナイジェリア代表のジェイジェイ・オコチャも負傷等で欠場している。この役者不足のビッグクラブを対戦相手に選ぶところはさすが策士フィリップ・トルシエである。「代表クラスの選手は約40人いる」とトルシエが豪語する層の厚い日本代表が次々と選手を代えてくるのに対し、駒の少ないパリサンジェルマンは選手交代もおぼつかない。サポーターもそこはよくわきまえたもので、通常ならば立錐の余地も無いオトゥーユとブローニュと名付けられたゴール裏はほとんど空席、横断幕もなく、日本に先制されても動じない。
 後半に入り少ない持ち駒を起用し、ベンチに退いたアルジェリーノに代わってメンディがキャプテンマークをつける。未来のディディエ・デシャンを予感させる19才のキャプテンの誕生に沸くスタジアム。豊富な持ち駒を活かしたトルシエの積極的な選手交代が長引かせたロスタイムに、ピエール・デュクロワがベナシュールのパスを日本DFと競り合いながらゴールイン。結局1-1のドローに持ち込み、若手選手や控え選手には大きな自信と経験となり、いよいよ13日にマルセイユ戦を迎えるのである。

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