第338回 欧州連覇目指すフランス(4) 最後の準備試合、ウクライナ戦

■初戦と第2戦に連勝することが優勝の条件

 フランスにとって欧州選手権の初戦は6月13日のイングランド戦である。フランスにとってイングランド戦の重要性は改めて書くまでもないであろう。グループBでは最大の強敵であるイングランドであるが、初戦を勝利でスタートできるか否かで、大きくその後の戦いに影響してくる。例えば、栄光をつかんだ1998年ワールドカップ、2000年欧州選手権では初戦、第2戦を勝利で飾り、第3戦を主力メンバーの休息とバックアップメンバーのテストを兼ねて、控えメンバー中心で臨み、決勝トーナメントで息切れせずに勝ちあがっている。
 一方、1996年欧州選手権も準決勝まで進出したが、初戦のルーマニア戦こそ勝利を飾ったが、第2戦のスペイン戦で引き分け、結局決勝トーナメント進出は第3戦のブルガリア戦の勝利が条件となった。そしてグループリーグで敗退した1992年欧州選手権は開催国のスウェーデンと引き分け、2002年ワールドカップではセネガルに敗戦ということで、初戦の勝利はグループリーグ突破への重要な条件であり、初戦と第2戦に連勝することは優勝への条件である。もちろん、これは相手のイングランドも同じことを考えており、「初戦は引き分けスタート」とは考えていないであろう。

■2000年欧州選手権予選で苦戦したウクライナ

 そのイングランド戦のちょうど1週間前に準備のための最後の試合が行われた。相手のウクライナは今回もまた欧州選手権は出場権を逃しているが、フランスにとっては忘れられない相手である。「フランス・サッカー実存主義」の第56回と第58回で詳しく紹介しているが、フランスが優勝した前回の欧州選手権では予選でフランスと同じグループ4に入り、ホーム、アウエーともスコアレスドローであり、フランスと互角の成績を残している。予選最終戦を迎える段階でウクライナはトップであったが、最終戦のロシア戦に引き分け、グループ2位となりプレーオフへ回ることになってしまった。プレーオフではスロベニアに敗れてしまったが、予選10試合で5勝5分であり、予選で負けがなかったのは10戦全勝のチェコ、7勝1分のスウェーデン、7勝3分のルーマニアといずれもプレーオフなしで本大会に出場している。このようにウクライナはアンドラ同様、前回の予選でフランスを苦しめた相手であり、苦しい予選を経験して優勝にたどり着いた前回大会のスピリットを思い出すには最高の相手であろう。

■ノルマンディー上陸作戦60周年と重なった試合日程

 そのウクライナとの試合は6月6日、単純にイングランド戦の1週間前と言うことでこの日に試合を設定したのであろうが、この日はノルマンディー上陸作戦からちょうど60周年、国内では様々な行事が行われる。本来ならば愛国心が高揚し、ポルトガルへ旅立つイレブンを鼓舞するには絶好の機会であるように見えるが、実はそうではなかった。米国からもジョージ・ブッシュ大統領がノルマンディー上陸作戦60周年の記念式典に出席するが、ブッシュ大統領の訪仏の主目的は5日にジャック・シラク大統領との間で行われる米仏首脳会談である。イラクへの主権移譲問題でフランスは米国と意見を異にするが、60年前は米国のおかげで祖国を守ることができたわけである。この微妙なタイミングで行われる米仏首脳会談は両国外交筋の英知の対決とも言える大一番である。またテニスのローラン・ギャロスも決勝を迎え、国民の関心がサッカーから離れたところで、フランスはウクライナとの最終調整試合を行うことになった。

■フランス代表100周年を記念して過去の代表選手を招待

 この試合でフランス協会はフランス代表100周年を記念して過去のフランス代表選手を招待する。フランス代表100周年を記念するイベントは2月18日のベルギー戦でも検討されたが、この試合はブリュッセルでのアウエーゲームであり、100周年を迎えたのは2004年5月1日であることから、その後に行うことになった。5月20日のブラジル戦はFIFA創立100周年の記念試合であること、そして5月28日のアンドラ戦は地方都市であるモンペリエで開催されることから、ウクライナ戦でフランス代表100周年を祝うことになった。過去のフランス代表選手約200人が現在のフランス代表の聖地であるスタッド・ド・フランスに招待されたのである。(続く)

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