第320回 ファイナリストへの第1戦(1) 闘将率いるモナコ、ハートの勝利

■注目の1戦、モナコ-チェルシー戦

 7年ぶりに2チームが欧州カップの準決勝に残ったフランス・サッカー界、頂点を目指す準決勝はトーナメント最後のホームアンドアウエー方式で行われる。チャンピオンズリーグはモナコ-チェルシー、ポルト-ラコルーニャ、UEFAカップはニューキャッスル-マルセイユ、ビジャレアル-バレンシアという組み合わせになった。モナコもマルセイユもイングランドのプレミアリーグ勢との対戦となった。モナコの第1戦はホームで4月20日、マルセイユは22日にアウエーで決勝進出を目指して戦う。
 20日に行われたモナコ-チェルシー戦は注目の一戦となった。まず、両チームの立地であるが、モナコは税制上の優遇から多くのスポーツ選手が在住しており、一方のチェルシーはロンドンを代表する高級住宅地である。ところが、ファンについて言うとモナコではサッカーに誰も興味を示さないのに比べ、チェルシーは非常に熱狂的なファンが集まるという対照的な構図となる。日本の皆様にはシンガポールのチームと帝塚山のチームが対戦するようなものであると説明すればわかりやすいであろう。

■新旧のフランス代表主将が対決

 さらにチェルシーは欧州を代表する裕福なクラブであることから多くの外国人選手を抱えており、この中にはフランス人選手も含まれている。まず、守備の中心であるストッパーにはマルセル・デサイーとウィリアム・ガラス、守備的MFにはクロード・マケレレとエマニュエル・プチという新旧のフランス代表選手を抱えている。さらにモナコのディディエ・デシャン監督は主将として欧州選手権を制覇したシーズンにはチェルシーに所属しており、現在の代表の主将であるデサイーはその当時のチェルシーの盟友であった。このように新旧のフランス代表の主将が監督と選手という立場こそ違うが2人の対決は注目を集め、通常は満員には程遠いモナコのルイ2世競技場は1万8500人の観客で満員になった。

■モナコの決勝進出を阻んだデサイーとデシャン

 またモナコはチャンピオンズリーグでは6年ぶり3度目の準決勝進出であるが、最初の準決勝進出は10年前であり、この時の相手はACミランであった。1回戦制で試合が行われ、モナコは0-3とACミランの前に屈している。モナコの決勝進出を阻んだACミランの先制点はデサイーであった。6年前の準決勝の相手はユベントス、アウエーの第1戦で1-4と大敗、ホームの第2戦は3-2と勝ったものの通算スコアでまたもや決勝への道を断たれている。実はデシャンはこの時のユベントスのメンバーであり、新旧のフランス代表の主将が今までのモナコの決勝進出を阻んできたのである。そしてこの夜、自らが6年前に破ったモナコの決勝進出という夢を監督として実現する立場に立ったデシャンは、現役当時と変わらない闘将ぶりを発揮したのである。

■闘将デシャンの檄と爆発的な攻撃力

 モナコはリーグ戦でもリヨンと激しい首位争いを演じており、選手の疲労も少なくはないはずであるが、リーグカップで敗退していることもあり、10日ぶりの試合という休養十分の日程で超満員の観客の前に姿を現した。デシャン監督の試合前の猛烈な檄を受けて赤と白のユニフォームのモナコは立ち上がりから攻撃的な姿勢を示す。17分にはダド・プルソが先制点。チャンピオンズリーグで通算7得点目となり、この段階で同僚のフェルナンド・モリエンテスとならんで得点ランキングトップとなる。しかし今季のチャンピオンズリーグにおいてアウエーで5戦全勝という信じられない成績で準決勝に進出してきたチェルシーもその5分後にアルゼンチン代表のエルナン・クレスポのゴールで同点に追いつく。
 同点で迎えたハーフタイムにはロッカールームで再びデシャン監督の檄が飛ぶ。後半立ち上がりにこれが逆効果となり、53分にバシリス・ジーコスが退場処分を受け、モナコは10人で戦うことになる。しかし、準々決勝までに22得点、そのうちホームでは17得点と爆発的な得点力を誇るモナコにとって人数的不利は問題ではなかった。78分にはモリエンテスが得点ランキング単独トップとなるゴールをあげて勝ち越し、そして83分にもこの試合から復帰したノンダが3点目をあげて、3-1と2点差をつけて勝利した。試合後のインタビューでデシャン監督は「ハートの勝利」と言うとおり、モナコの精神力が欧州屈指の財力を持つクラブを圧倒したのである。(続く)

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