第122回 帰ってきたロベール・ピレス

■半年以上戦線離脱をしたロベール・ピレス

 昨年度のイングランドの最優秀選手、ロベール・ピレス、この男がブルーのユニフォームを着ていればフランスが今回のワールドカップで惨敗はしなかった、という声は多い。本連載の第47回で紹介した通り、アーセナルに所属するピレスは3月23日にホームグラウンドのハイベリーで行われたFAカップ準々決勝のニューキャッスル戦で負傷し、長期にわたり戦線を離れることになったのである。
 当初、ピレスの復帰はワールドカップには間に合わなくともシーズン開幕に間に合うであろうと言われていた。また、新監督の船出となる8月の親善試合にカムバックするのではないかと期待されていた。しかし、8月18日のハイベリーにも8月21日のチュニジアのラデスにもピレスはいなかったのである。

■QPRとの親善試合で7か月ぶりに試合に出場

 そのピレスがようやく戻ってきた。ピレスは10月15日にクイーンズ・パーク・レンジャーズ(QPR)との練習試合にフル出場した。ピレスが練習試合とは言え試合に出場するのは3月の負傷以来7月ぶりのことである。青と白の横縞の名門QPRは1995-96シーズンまでプレミアリーグに所属していたが、以後没落し、現在は3部リーグに当たるイングランド2部リーグに甘んじている。この試合、QPRが意地を見せ、前半に先制点を奪う。0-1とリードされたが、後半に入り49分にアーセナルが追いつく。そして試合の流れを決定的に変えたのがピレス、60分に相手守備陣のマークをかわして勝ち越し点を決める。これで昨年の二冠チームであるアーセナルは波に乗り、ゴールを重ね、5-1と貫禄を見せる。

■チャンピオンズリーグのオセール戦で公式戦に復帰

 ピレス復活にガンナーズファンは喜んだが、ピレスは19日のプレミアリーグのエバートン戦にはベンチ入りからもせず、公式戦のカムバックは22日にハイベリーで行われる欧州チャンピオンズリーグのオセール戦に照準を合わせた。プレミアリーグではエバートン戦を迎える段階で首位、チャンピオンズリーグでもオセール戦を迎える段階で首位と今季も好調なアーセナルであるが、アルセーヌ・ベンゲル監督はピレスの復帰はアウエーゲームではなく、ハイベリーでのチャンピオンズリーグは昨年3月以来12連勝中というホームゲームを選んだのであろう。
 さて、チャンピオンズリーグの1次リーグでアーセナルはグループAでボルシア・ドルトムント、PSVアイントフォーフェン、オセールと対戦し、3連続完封勝ちと完璧な展開。2順目の最初の対戦はオセール。オセールは初戦をホームで戦い、PSVアイントフォーフェンにスコアレスドローに持ち込んだ以外は勝ち点なしでグループ最下位、3週間前にはホームでアーセナルに0-1と敗れている。そういう組し易い相手であることもピレス復帰にふさわしい相手であると判断したのであろう。
 雨の降りしきるハイベリーで背番号7はベンチでキックオフを待つ。劣勢を予想されたオセールであるが、4人のフランス代表を抱えるアーセナルに対し闘志を燃やす。8分にはピレス負傷後にフランス代表入りしたオリビエ・カポが先制点をあげ、アーセナルは今季のチャンピオンズリーグで初失点を喫する。オセールにとってはイングランドのチームに対して実にこれが8年ぶりのゴールである。27分にはセネガル代表としてワールドカップでも活躍したカリル・ファディガに追加点を奪われ、0-2とまさかのスコアで後半を迎える。後半序盤にアーセナルはヌワンコ・カヌーが1点を返す。そして72分、ベンゲルは切り札を投入する。ブラジル代表として世界の頂点に立ったジウベルト・シルバに代わってピレスが出場したのである。ピレスはまずまずの動きを見せ、試合終了間際にはシュートを放つが同点には追いつけず、アーセナルは初黒星となり、オセールは初白星をフランス人監督が率い、主力をフランス人選手で固めたイングランドのチームからあげたのである。

■敗戦の翌日にもリザーブリーグの試合に出場し、活躍

 アーセナルにとっては前週末のプレミアリーグのエバートン戦に続く連敗となった。オセール戦で19分間しかピッチに立たず、復帰を白星で飾ることができなかったピレスは、その翌日にはリザーブリーグのイプスウィッチタウン戦に出場していた。昨年までプレミアリーグに所属していたイプスウィッチタウンも今季はイングランド1部リーグで臥薪嘗胆の1年。イプスウィッチタウンは多くの主力をメンバーに加えたが、その野心を打ち砕いたのがピレスであった。39分にチップキックでGKの頭を超えるシュートを放ち先制点。3分にベンチに退いたが、2日間でほぼ90分、ピッチを走り回った。
 4月25日の手術からほぼ半年、リハビリテーションの期間はピレスを精神的にも大きく成長させた。そのピレスの姿をフランスで見ることができるのは11月20日のユーゴスラビア戦、実に楽しみである。(この項、終わり)

このページのTOPへ