第188回 古豪エジプトと初対戦 (5) 56年ぶりのワールドカップ出場と近年の低迷

■ワールドカップへの遠い道のり

 1934年のイタリア・ワールドカップに出場し、ナセルによる革命直後の1950年代後半にアフリカ選手権で活躍したエジプトは、その後もアフリカ選手権ではコンスタントな成績を残してきた。コンスタントにアフリカ選手権で成績を残しているという点ではエジプトに比肩する国はない。歴代記録をひもとくと、アフリカ選手権については本大会出場18回、通算試合数69、優勝4回、通算勝ち星32勝、通算得点109、通算得失点差38など、いずれも最多であり、数多くの記録を保有している。18回の出場のうち3分の2にあたる12大会でベスト4以上に進出している。
 しかしそのエジプトも、ワールドカップの道のりは遠かった。第二次世界大戦後は1954年スイス大会から予選に参加したが、アフリカ選手権で連覇した頃ですらワールドカップ予選では欧州の厚い壁に阻まれ、1970年代にはモロッコ、ザイール、チュニジアに本大会のチケットを譲った。そして1980年代にはカメルーン、アルジェリア、モロッコが本大会に駒を進めている。1986年の地元開催のアフリカ選手権では優勝したものの、同時期に行われたワールドカップ予選を勝ち抜くことができず、早い段階でマダガスカルにPK戦で敗れている。

■56年ぶりにワールドカップ本大会出場、再びイタリアの地を踏む

 そうしてようやく本大会行きのチケットを手にしたのが1990年大会である。2次予選でリベリアなどに競り勝ち、最終予選の相手はアルジェリア。ホームアンドアウエー方式で行われた最終予選で、アウエーの初戦をスコアレスドローでしのぎ、カイロでの第2戦は1-0で勝利し、実に56年ぶりの本大会出場となり、再びイタリアの地を踏むことになったのである。本大会ではイングランド、オランダ、アイルランドとともにグループFに入る。本連載の第179回でも紹介したシチリア島のパレルモでも試合を行い、決勝トーナメントまであと一歩まで迫ったが、グループリーグ最終戦のイングランド戦でマーク・ライトの決勝点に泣いている。
 その後はアフリカからの出場枠が増加したものの、再び本大会から見放され、昨年のワールドカップも最激戦区のグループCでセネガル、モロッコと三つ巴の接戦となり、最終戦でアルジェリアと引き分けてしまったために本大会出場を逃した。

■1998年アフリカ選手権で4回目の優勝

 最近の栄光は1998年のアフリカ選手権での優勝である。ブルキナファソで開催されたこの大会はフランス・ワールドカップの前哨戦という位置付けになったが、フィリップ・トルシエ率いる地元ブルキナファソが旋風を巻き起こした。準決勝に進出した白い呪術師の前に立ちはだかったのが、古豪エジプトである。ブルキナファソを2-0と下したエジプトは決勝に進出し、準決勝に残った4チームのうち唯一フランス行きのチケットを持っていた南アフリカを2-0と下して、12年ぶり4回目の優勝を果たしたのである。
 その年の秋、フィリップ・トルシエが自らのデビュー戦の相手にエジプトを選んだのは当然のことであろう。アフリカを制覇したエジプトも大阪で行われた日本との戦いでは0-1と完封負けし、トルシエが雪辱を果たしたことは日本の皆様ならばよくご存知であろう。この日本の勝利は、4年後のワールドカップ決勝トーナメント進出の第一歩となったのである。

■1998年アフリカ選手権以外は低調な1990年代以降

 しかしながら、この優勝を除くと、1990年代以降はアフリカ選手権で不本意な成績が続いている。本大会には必ず出場しているものの、1990年大会、1992年大会はいずれも本大会のグループリーグで最下位となり、決勝トーナメントに進出できず、1994年大会、1996年大会、2000年大会、2002年大会といずれも準々決勝で敗れている。2002年大会はグループリーグでワールドカップ出場国と対戦し、チュニジアに勝ち、セネガルに敗れ、優勝国となったカメルーンに決勝トーナメント1回戦(準々決勝)で敗れている。
 また、現在、チュニジアで行われる2004年大会の予選の最中であるが、マダガスカル、モーリシャスとともにグループ10に入ったエジプトは初戦でマダガスカルにアウエーとは言え0-1と敗れてしまった。今年3月29日にはアウエーでモーリシャスと対戦し、アヤックスで活躍するアメード・ホッサムのゴールで1-0と勝利を収めたが、マダガスカルはモーリシャスにも勝ち、現在2連勝中である。古豪復活に向けて、6月22日にホームで行われるマダガスカル戦が本大会出場の天王山となる。エジプトにとってもフランス戦の次の試合は6月8日のモーリシャス戦であり、重要なテストの場なのである。(続く)

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