第1462回 日本と6度目の対戦(3) 若手選手がチャンスをつかめず、まさかの敗戦

 昨年3月11日の東日本大震災で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、東北地方だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■日本との対戦で苦戦したデシャン監督

 スペイン戦の前にアジアチャンピオンの日本を迎えるフランス、ディディエ・デシャン監督はメンバーの起用に悩んだ。今夏から来春にかけて行われる一連の親善試合で唯一ワールドカップ優勝経験がないと言っても、相手はアジアチャンピオンである。特に2000年にモロッコで行われたハッサン2世杯の際、フランスのDFラインはリリアン・テュラム、ローラン・ブラン、マルセル・デサイー、ビシャンテ・リザラズというベストの布陣であった。フランスの黄金期を支えたこのDF陣で戦った試合でフランスは負けたことがない。そのDF陣から2点を奪い、PK戦まで持ち込んだ日本の力をその試合で主将を務めていたのがデシャン監督である。
 そしてもう1つ、日本代表の監督であるアルベルト・ザッケローニの存在である。デシャンは選手としてイタリアのユベントスでプレーし、監督としても2006年から2007年にかけてユベントスを率いたことがある。一方、ザッケローニは2009-2010シーズンにユベントスの監督を務めている。デシャンの方が先に監督を務めているとはいえ、ザッケローニはそれまでにACミラン、インテルミラノなどビッグクラブの監督を経験しており、デシャンも一目置いているはずであり、敬意をもって選手を起用しなくてはならない。

■ディディエ・デシャンの選んだ11人

 試合の日のフランスのスポーツ紙レキップ紙の見出しは「席はまだあるぞ」、これは最近チケットセールスが不振な代表チームの試合に対して、オールドファンを呼び戻そうとし、代表歴の少ない選手へ向けてのメッセージである。  結局、ピッチの上でラ・マルセイエーズをうたったメンバーは次の通りになった。GKはウーゴ・ロリス、DFは中央にローラン・コシエルニーとママドゥ・サコ、右はマチュー・ドビュッシー、左にガエル・クリシー、MFは守備的な位置にエチエンヌ・カプー、攻撃的な位置は右にムーサ・シソッコ、左にブレーズ・マツイディ、FWは中央にオリビエ・ジルー、右にジェレミー・メネス、左にカリム・ベンゼマという布陣である。

■ほぼ半数が代表歴の少ない選手

 前回の本連載で紹介した通り、代表歴が一桁の選手が5人(コシエルニー、サコ、カプー、シソッコ、マツイディ)に上る。また、代表の試合で長いブランクのある選手も少なくない。さらにロリスのように所属チームでの試合出場の機会に恵まれず、試合勘が十分に機能していないことが危惧される選手もいる。通常であれば、親善試合の日本戦は第2GKに任せ、正GKはスペイン戦に集中するというのが定石であろうが、ロリスに試合経験を積ませることが必要と判断しての起用であろう。

■終盤に決勝点を奪われ、まさかの敗戦となったフランス

 試合は立ち上がりからフランスが日本を圧倒する。圧巻だったのはベンゼマである。サイドのFWとなったが、次々と日本のゴールを襲う。日本のGKの川島永嗣のファインセーブに阻まれる。前半だけでフランスは14本のシュート、対する日本はわずか1本である。フランスのサッカーファンはデシャン監督の初陣の8月のウルグアイ戦と同様に、試合を支配するも得点をあげることができないという展開になる。
 デシャン監督は後半開始時から積極的に選手を交代させ、事態を打開しようとするが、代表歴の少ない選手が交代選手の中心であった。6人の交代枠を使い切ったが、そのうち4人は代表歴が一桁の選手(ジャレ、シャントム、ゴミス、ゴナロン)であり、代表歴が二桁になるのは後半開始時に投入されたマチュー・バルブエナと68分に投入されたフランク・リベリーだけであり、残りの4人は代表出場歴が10回未満で試験走行の域を出ない。
 そして後半になってチームとしての形で上回る日本はしばしばチャンスを得る。そして圧巻は88分、フランスの右CKのこぼれ球を、日本の今野泰幸がドリブルで長距離を突破、長友佑都にはたき、センタリングはフランスは数的優位であったが、香川真司にゴールを決められる。フランスの中盤以下の守備陣が確立していれば防ぐことのできた1点であった。
 0-1というスコアで、フランスはスタッド・ド・フランスでの2年ぶりの黒星となった。そして試験運転という環境下で出場した若手選手にとっては、厳しい結果となったのである。(この項、終わり)

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