第222回 ランス・アームストロング、100周年を飾る偉業達成

■序盤に活躍した豪州勢、コロンビア人選手

 100周年を迎えたツール・ド・フランスについては本連載第218回から第220回で取り上げ、多くの反響を呼んだ。日本においても自転車がサッカーをしのぐ人気を誇ることを実感した次第である。今回はランス・アームストロングの5連覇とフランス人選手の活躍が地元ファンの注目となった今年のツール・ド・フランスを振り返ってみたい。
 大会序盤にはロビー・マキュワン、ブラッドレイ・マクギー、バーデン・クックという豪州勢の活躍とコロンビア人選手ではじめてマイヨー・ジョーヌを獲得したビクトール・ウーゴ・ペーニャが話題となった。100年前から国外の選手が活躍していると第222回で紹介したが、当初、欧州人だけが参加していたツール・ド・フランスも世界中の選手が集まってくるようになり、北中南米やオセアニアの選手が上位に進出するようになっており、国際化の進展は100年経ってもサッカーに先んじていると言うことができる。

■フランスのジャン・パトリック・ナゾンとリシャール・ビランクの活躍

 しかし、大会を盛り上げるのはなんと言っても地元フランス人選手の活躍である。1985年のベルナール・イノー以来、フランス人選手は優勝から遠ざかっている。革命200周年を迎えた1989年の大会ではローラン・フィニョンが米国のグレッグ・レモンに一歩及ばず2位にとどまっているが、是非とも今年はフランス人の優勝シーンを見たいものである。その国民の期待に応えたフランス人選手が2人いる。まず第3ステージ終了時に個人総合成績でトップに立ったジャン・パトリック・ナゾン、そしてもう1人は山岳ステージの初日に活躍したリシャール・ビランクである。今年のフランスは記録的な猛暑となり、このアルプスの山岳シリーズがピレネーの山岳シリーズよりも厳しい条件となった。その酷暑の山岳シリーズを制覇し、第7ステージまでの総合成績でトップに立ったのが地元フランスのビランクである。ビランクは実に11年ぶりにマイヨー・ジョーヌを獲得するとともに、マイヨー・ブラン・ア・ポワ・ルージュも獲得し、フランス国民を熱狂させたのである。

■王者ランス・アームストロング、マイヨー・ジョーヌをキープ

 しかし、この地元ビランクの活躍の影で着々とポイントを獲得していたのが昨年まで4連覇を果たしている本命のアームストロングである。早い段階で総合順位がトップになると、他の選手のマークが厳しくなり、序盤でエネルギーを消耗することにつながる。なるべく序盤は力をセーブしつつ、好位置を確保するのがツールの定石である。そして山岳コースの2日目の第8ステージでアームストロングは総合成績で首位に立ったのである。第8ステージはサランシェを出発し、標高1850メートルのラルプデュエズに至る全長219キロのコースであるが、古くから「ラルプデュエズを制したものはツールを制覇できない」と言われてきた。しかしその古くから伝わるフランスのジンクスを破ったのはほかならぬアームストロングであった。2001年の大会でこの山を制したアームストロングは3連覇を果たしている。
 そしてここからアームストロングはマイヨー・ジョーヌをキープしつづける。アルプスで獲得したマイヨー・ジョーヌは南仏でも、ピレネー山脈でも、そして大西洋岸でも、常にアームストロングのものであった。トゥールーズからプラトー・ド・ボナスクルに向かう第13ステージではヤン・ウルリッヒの猛追を受け、水分補給に失敗し、体調を崩しかけたこともあったが、それでもマイヨー・ジョーヌを他の選手に譲らなかったことはアームストロングの王者の執念とプライドを感じずにはいられない。

■アームストロング5連覇、最終ステージを飾った地元フランスのナゾン

 アームストロングの栄光の日は7月27日。7月5日に198選手でスタートしたツール・ド・フランスも激闘の末、最終日まで残ったのは147選手。最終日は例年どおりパリ近郊をスタートし、ゴールはシャンゼリゼの周回コースである。すでに前日までのポイントでアームストロングの総合優勝はほぼ確実、スプリント賞のマイヨー・ベールの行方が気にかかる最終日となった。レースはマイヨー・ベールを争うマキュワンとクックが競り合ったが、シャンゼリゼの残り1周でその2人をかわしてゴールに飛び込んだのは地元フランスのナゾンであり、最終ステージを地元フランス人選手が制するという劇的なラストとなった。
 総合優勝(マイヨー・ジョーヌ)はアームストロングで5勝クラブの仲間入り、スプリント賞(マイヨー・ベール)はクック、山岳賞(マイヨー・ブラン・ア・ポワ・ルージュ)は地元のビランク、新人賞(マイヨー・ブラン)は参戦3回目のロシアのデニス・メンチョフ、今年もドラマの玉手箱となったツール・ド・フランスが終わり、サッカーのフランスリーグの開幕は今週末である。(この項、終わり)

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