第1182回 2010年デビスカップ決勝 (1) 10回目の優勝に王手をかけたフランス

■フランスのスポーツ界に勇気を与えたイングランド戦の勝利

 前回までの本連載ではウェンブリーでイングランドを倒し、南アフリカでの惨敗から立ち直ったサッカーのフランス代表を紹介してきた。強豪国との勝利から遠ざかっていたフランスにとって、久しぶりの勝利となった。また相手のイングランドとは長年のライバル関係にあり、イングランドを倒したことによってイレブンは自信をつけ、他のスポーツ関係者にも大きな勇気を与えることになった。

■テニスにおけるフランスと英国のライバル関係

 サッカー以外にフランスとイングランド(英国)がライバル関係にあるスポーツはラグビーが代表的であるが、今回から紹介するテニスも同様であろう。サッカーもラグビーも両国とも高いレベルにあるが、同等あるいはそれ以上の力量を持った国は欧州内外に多数ある。一方、テニスの場合、両国のレベルはサッカーやラグビーのように高くはないが、欧州で四大トーナメントを開催しているのはイングランド(ウィンブルドン)とフランス(ローラン・ギャロス)だけである。ウィンブルドンとローラン・ギャロスの1968年のオープン化以降はなかなか自国から優勝者を輩出していない(ウィンブルドンの男子はゼロ、女子は5回、ローラン・ギャロスは男子1回、女子4回)が、かつてはフランスとイングランド(英国)は欧州の覇権を争っていた。国別対抗戦であるデビスカップでは両国とも9回の優勝を誇っている。
 そして今年、フランスが10回目の優勝に王手をかけた。今回から今年のデビスカップを取り上げてみたい。これまでに本連載でデビスカップを取り上げたことは2回あったが、2002年はロシアに決勝で敗れ準優勝、2004年はスペインに準決勝で敗れ、いずれも優勝を逃している。今年は本連載としての初優勝を果たしたいところである。

■フランス企業がスポンサーとなったデビスカップ

 デビスカップはかつては日本のNECがスポンサーとなり生き返らせたイベントであるが、現在はフランスの銀行BNPパリバがスポンサードしている。BNPパリバというと日本の皆様にはローラン・ルノーのイメージが強いが、テニスの支援は積極的で、ローラン・ギャロスの緑の壁にBNPパリバのロゴをご覧になった方は少なくないであろう。
 フランスは伝統的にデビスカップでは実力以上の力をだし、好成績を残してきた。昨年はワールドグループの1回戦で敗退(16強)にとどまったが、2001年以降2008年まで8年連続で8強以上の成績を残している。一方の英国は2008年のワールドグループ1回戦で敗れ、欧州・アフリカゾーンに転落し、今年は欧州・アフリカゾーンの2部で戦っており、フランスとは相当水をあけられた形になっている。
 ワールドグループの1回戦は3月5日から7日にかけて世界各地で行われた。フランスの1回戦の相手はドイツ、フランスのトゥーロンで長い戦いの火ぶたが切って落とされた。

■2009年のジャパンオープンで優勝したジョー・ウィルフリード・ツォンガ

 1回戦の時点の世界ランキングがフランス人の中で最高だったのは、11位のジョー・ウィルフリード・ツォンガである。ツォンガはコンゴ共和国をルーツとし、その容貌からテニス界のモハメド・アリと呼ばれている。2008年初めに行われた全豪オープンで準優勝し、世界の檜舞台で注目されたが、日本の皆様にはジャパンオープンとは切っても切れない縁がある。2008年のジャパンオープンで初訪日、3回戦で敗れたが、日本のファンには強烈な印象を植え付けた。そして2009年のジャパンオープンでは見事優勝する。かつては坂井利郎、ステファン・エドベリ、イワン・レンドル、ジョン・マッケンロー、ピート・サンプラスといった歴史に残るテニスプレーヤーがチャンピオンズスピーチを行った大会で初めてフランス人が優勝した。
 このツォンガの優勝が日本のテニスファンに火をつけ、ツォンガが3年連続となる訪日となった今年の同大会には8万人の観客が押し寄せたことは記憶に新しい。
 今年の大会でツォンガは第3シードになりながら、1回戦でフィンランドのヤルコ・ニエミネンにフルセットで敗れてしまったが、この大会で決勝に進み、スペインのラファエル・ナダルと戦い、準優勝に輝いたのがフランス人のガエル・モンフィスだったのである。(続く)

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