第369回 ワールドカップ予選開幕(3) 11年ぶりにワールドカップ予選勝利、主将が退場

■順調に大勝スタートとなったアイルランドとスイス

 前回の本連載で紹介したとおり、11年ぶり、そしてスタッド・ド・フランスでの初めてのワールドカップ予選はスコアレスドローに終わった。上位シード国にとって下位シード国とのホームでの対戦は大量得点での勝利がワールドカップ予選の定石であり、近年力を付けているイスラエル相手とはいえ、不本意な結果であろう。ちなみにグループ4のライバルと目されるアイルランドはホームでキプロスに3-0、スイスもホームでフェロー諸島に6-0と大勝している。

■デンマークの自治領・フェロー諸島

 早くもレイモン・ドメネク新体制への批判が高まる中で、選手たちは無念のスコアレスドローという初戦の心身の疲れを癒すまもなく、試合前日の7日の朝に選手を乗せた飛行機はシャルル・ド・ゴール空港から飛び立った。飛行機の行き先はグレートブリテン島、アイスランド、ノルウェーの中間にあるフェロー諸島のトールシャウンである。フェロー諸島はデンマークの自治領であるが、本国とは一線を画し、国防と外交を除く権限を有している。しかしながら、本国が創設メンバーであるEUにも所属しておらず、フランスにとっては久々のEU域外での試合となる。18の島からなるフェロー諸島の人口はわずか4万6千人、羊は9万頭以上いると言われている。
 自治領としてフェロー諸島がサッカーの世界で独自の活動を起こしたのは1980年代の末のことである。FIFAに1988年に加盟し、1992年欧州選手権スウェーデン大会予選が国際舞台へのデビューである。この小国は国際デビューで驚きを欧州に与えた。1990年のワールドカップ・イタリア大会にも出場した中欧の古豪オーストリアを1-0と下したのである。フランスがボスニア・ヘルツェゴビナと引き分けた8月18日にはマルタを3-2と下し、昨年4月29日には日本のかつてのライバルであるカザフスタンに勝利している。決して甘く見ることはできない相手であるが、フランスが欧州選手権で下したスイスが初戦で大勝していることを考えれば、アウエーとはいえ、大量得点での勝利を期待したい。

■イスラエル戦の反省を踏まえた布陣

 しかしながら、スタート間もない新体制で2戦連続して勝利を逃していることを考えれば、北の島でどのような展開になるのか不安が先行するのはやむを得ない。スタジアムにはフェロー諸島の人口の15%にあたる6000人が集まった。GKはイスラエル戦同様にグレゴリー・クーペであるが、イスラエル戦の後半から採用した4バックシステムで試合に臨む。右からウィリアム・ガラス、左にパトリス・エブラ、中央にセバスチャン・スキラッチとガエル・ジベというライン。守備的MFは主将のパトリック・ビエイラとブルーノ・ペドレッティを起用する。そして攻撃的MFはイスラエル戦後半に投入したロベール・ピレスとルドビック・ジュリー、2トップはイスラエル戦と同じくティエリー・アンリとルイ・サア。イスラエル戦での反省を踏まえた布陣となった。

■11年ぶりの勝利も素直に喜べない主将ビエイラへのレッドカード

 開始早々にサアが負傷し、ジブリル・シセに交代するハプニングがあったものの、フランスが先制点をあげた。32分にジュリーがピレスのキックのこぼれ球をゴールに押し込む。見事に2人の先発起用が的中する。終始攻撃を続けるフランス、守勢一方のフェロー諸島という図式のまま、フランス1点リードでハーフタイムを迎える。ところがこの攻勢が後半に入り裏目に出る。55分に守備的MFのビエイラも攻撃参加したところまではよかったが、シミュレーションの反則を取られ、この試合2回目の警告。フランスにとって主将を失い、残り35分間10人で戦うことが宣告されたのである。人数的に少ないフランスであるがなおも攻撃の手を緩めず、73分にはピレスからのパスをジュリーがゴール前のシセへつなぐ。シセが無人のゴールに追加点をあげ、フランスはようやく2-0で勝利することができたのである。ワールドカップ予選として1993年9月8日のフィンランド戦以来、ちょうど11年ぶりとなる勝利をあげた。
 しかし、勝ち点4で4チームが並び、フランスの順位はこの時点で3位。10月9日のホームでのアイルランド戦には退場処分となった主将のビエイラは出場することができない。また、ビエイラが退場する際にキャプテンマークを渡されたアンリも試合途中でベンチに下がり、試合終了時のキャプテンマークはピレスの腕にあり、3人が主将を務めたことになる。このようにチームの軸も定まらない中で強豪相手の試合の行方はどうなるのだろうか。(この項、終わり)

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