第67回 ミレニアムの「ブルー」の船出

■ベテラン中心で臨んだポーランド戦

 エッフェル塔での大スペクタクルで迎えたミレニアム。フランス代表にとってそのミレニアムの初仕事は2月23日のスタッド・ド・フランスでのポーランドとの親善試合であった。昨年10月9日の欧州選手権戦予選の最終戦で本大会出場を決めた後、代表の試合は11月13日のクロアチア戦のみ。各クラブの試合日程が過密化する中、久しぶりのブルーのユニフォームである。
 2月17日に発表されたメンバーは論議を巻き起こした。18人のメンバーのうち、15人がワールドカップ・フランス大会に出場した選手であり、「親善試合なのだから若手選手を試すべき」「好調モナコの選手が少ない」などの意見が出た。確かにワールドカップ終了後新たに代表入りした選手は13人いるが、その中で今回代表入りしたのはFWのシルバン・ビルトールとトニー・ベレル、控えキーパーのリオネル・レティジーだけである。モナコから選出されたのはGKのファビアン・バルテス、ダビッド・トレズゲだけであり、今シーズン大活躍のフィリップ・クリスチャンバル、サブリ・ラムーシ、マルタン・ジュトーはいずれも「フランスA'」に入り、ベルギーA'と試合を行う。
 しかしながら、6月の欧州選手権に向けた代表合宿もわずか15日であり、これまで欧州選手権、ワールドカップの本大会の経験者が多かった大会で好成績を残している、というデータから、レギュラーの平均年齢29才、平均代表歴48というベテラン集団になってしまったのである。

■新調したユニフォームの「青い襟」と1958年ワールドカップ

 さて、この見慣れたメンバーの着用するユニフォームがミレニアムを迎え、歴史を重んじ、現代性を感じさせるというコンセプトで新調された。歴史を重んじている点は以下の3点のデザインに象徴されている。
 まずフランスサッカーの栄光の第1ページである1958年のワールドカップ・スウェーデン大会時にならい、襟を青に変更した。第2の栄光である1984年の欧州選手権フランス大会の優勝時のユニフォームに由来し、胸には赤い横線が入る。そして、第3の栄光であるワールドカップ・フランス大会の優勝以来協会エンブレムの上に入っている黄金の星である。一方、素材面では機能性を重視し、最高のパフォーマンスが発揮できるよう現代性を感じさせる。
 その1958年のワールドカップ・スウェーデン大会で活躍したレイモン・コパがミレニアム最初のフランス代表の試合に招かれ、キックオフを行った。本連載の第54回でも紹介したとおり、コパの名字は正確にはコパゼウスキー。北フランスの炭鉱町に住み着いたポーランド移民の子供である。コパにとって父の祖国ポーランドは特別な郷愁があるはずである。
 コパにとっては主将としてポーランドをパルク・デ・プランスに迎えた1962年4月11日以来の記念すべき日となったのである。この試合はポーランドに3-1と敗れ、ジェットのドリブラーと言われたさすがのコパも「悪い思い出しかないので忘れてしまった」と言っているが、試合前のポーランド主将のシュチェパンスキーの握手の強さは覚えているはずである。
 現在もフランス代表には南北アフリカ、欧州諸国、中南米、太平洋地域など様々な国をルーツとする選手が集まっているが、コパの時代、それはポーランドであった。炭鉱の町を中心として流入したポーランド移民がフランス・サッカーを支えた。特に彼らの子供達はサッカーで身を立て、斜陽産業から抜け出そうとしたのである。これは現在、パリ周辺のスラム化しつつある地域から多くのプロサッカー選手が生まれていることと共通点がある。第二次大戦後の1940年代から1950年代にかけてフランスのプロサッカー選手の1割以上はポーランド系であり、彼らの活躍なしに1958年のワールドカップでの躍進はなく、新調したユニフォーム襟も青色ではなかったであろう。

■かつての「東欧の雄」も自由化によって弱体化

 さて、そのフランス・サッカーの恩人とも言えるポーランド・サッカーであるが、過去の対戦成績はフランスの6勝4分3敗と分がいい。90年代には4回も対戦している。1996年の欧州選手権イングランド大会の予選では同グループで戦い、ホーム、アウェーとも引き分けている。日本でもフランス-ポーランド戦は1982年のワールドカップ・スペイン大会の3位決定戦をご覧になった方も多いと思われる。セルビアでの準決勝で西ドイツとの死闘に敗れ、3位決定戦は主力をはずしたフランスをポーランドが3-2で下し、1974年の西ドイツ大会以来2回目の3位になったのである。
 オリンピックでも1972年のミュンヘン大会優勝、1976年のモントリオール大会準優勝と好成績を残し、ワールドカップにも1974年大会から1986年大会まで4回連続で出場した「東欧の雄」であった。しかし、1986年のワールドカップ・メキシコ大会の決勝トーナメントでブラジルに0-4と敗れたのを最後に世界の桧舞台から遠ざかり、ワールドカップ、欧州選手権の予選では7回連続予選落ちしている。今回の欧州選手権予選でもイングランド、ブルガリア、スウェーデンなどとグループ5に入り、最終戦でスウェーデンに0-2で敗れ、得失点差でイングランドに及ばず、プレーオフ出場を逃したことは記憶に新しい。東欧の自由化の中で従来ステートアマとして力を失ったスポーツは数少なくないが、ポーランド・サッカーはまさにその象徴である。
 さて、コパのキックオフで開始された試合であるが、先発メンバーでフランスのクラブに所属しているのはフランス、ポーランドとも同数、という珍しい現象が起こった。フランスはGKのバルテス(モナコ)と両トップのトレズゲ(モナコ)、ビルトール(ボルドー)、一方のポーランドもストッパーのバク(リヨン)、右サイドバックのクロス(オセール)、ゲームメーカーのスウィルチェウスキー(バスティア)の3人ずつである。試合は0-0でこのままタイムアップかと思われたが、88分にジネディーヌ・ジダンがボレーシュートで決勝点を上げ、ミレニアム最初の試合を白星で飾った。「青い襟」というのはフランス語では「水兵」という意味もある。ミレニアムの「ブルー」の船出は幸先よいものとなったのである。

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